シリーズ「世界の人口」のまとめ②-人口安定国家-
シリーズ内の記事一覧
「未来の歴史を描こう」と思い立ち、立ち上げたシリーズ「世界の人口」では、ここまで世界の主要国の人口動態を3つのグループに分け、それぞれの特徴を検討してきた。一覧にまとめると次のようになる。
1 総人口が減少するグループ
2 総人口が一定になるグループ
b 将来一定する国
3 総人口が増加するグループ
総人口が一定になるグループ
前回はシリーズのまとめとして、「1 総人口が減少するグループ」を取り上げてきたが、今回はその続きで「2 総人口が一定になるグループ」について見ていきたい。
すでに一定している国
総人口がすでに安定期に突入しており、2100年までに10%以内の減少に抑えられる国の代表としてフランス、イギリス、オランダ、フィンランド、チェコを取り上げた。
西ヨーロッパを中心とするこれらの国の出生率は、ほとんど1.5~1.9に収まっており、先進国の中では高い部類に属する。かなり緩やかな少子化が進行すると同時に、高齢者も増加する。しかし、人口減少国家のような急激な変化は見られず、時間をかけてじわじわと少子高齢化が進んでいく。厳密には人口減少していくのだが、75年で10%の減少にとどまるのであれば、大きな社会変化はなく、それに伴う「痛み」はごく軽いものとみなしうる。日本のように著しい世代間格差が生じないということだ。
GDP(名目)に目を向けてみると、これらの国々は2000年代末からの約15年間ほぼ横ばいで推移している。いわゆる「日本型」になっているのだ。そして、それは時期的に生産年齢人口が横ばい局面に入るのとちょうど同じタイミングだ。西ヨーロッパは人口面でも経済面でもすでに安定局面に入ったのではないだろうか。
南欧が著しい人口減少社会かつ経済規模の縮小社会に突入したのを尻目に、西ヨーロッパは安定感を維持している。しかし、この後見ることになる北ヨーロッパほどのパフォーマンスをあげているわけではない。つまり、大雑把に捉えれば、ヨーロッパの人口と経済のパフォーマンスは、南欧≒東欧<西欧<北欧という順になっている。
日本を照射する
前稿でも触れたが、日本は生産年齢人口が急減しているにもかかわらず、西ヨーロパと同じように経済規模は一定を保っているという意味で、人口減少国家の模範例といえるだろう。近年は日本に対して日本人からの悲観論が蔓延しており、それも完全に間違いないではないが、他国と比較してみると「よくはないが、最悪なわけでもない」という評価ができる。「日本は終わった」という一方の極論も、「日本はすばらしい」というもう一方の極論もどちらも誤りである。日本は終わってもいないし、世界の中で特筆してすばらしいわけでもない。衰退していく中でなんとか持ちこたえており、その我慢はあと20~30年代続くだろう。
ただし、「下には下がいる」と胸を撫で下ろし、根本的な改革をなおざりにしていると、たちまち南欧型になってしまうだろう。人口と経済の観点から、日本にとり差し当たりの現実的な目標となるのはドイツで、次はフランスかチェコとなる。理想形としてはスイス・北欧型となるだろうが、これは夢のレベルだ。
将来一定する国
このカテゴリーに属する代表国は、アメリカ合衆国、ニュージーランド、サウジアラビア、南アフリカだ。これらの国は、2050~60年ごろまで人口が増加し、そこから横ばい局面に突入していく。
出生率に関しては、アメリカとニュージーランドが1.7台と比較的高く、サウジアラビアは中東では並の水準の2.5台。南アフリカは、2.3台とサブサハラ・アフリカ諸国では最低水準だ。共通の特徴として、(ほぼ)少子化は進まない中、高齢化が進んでいくということだ。
日本では「少子高齢化」と深く考えずに使用される表現があるが、少子化(子どもの数が少なくなっていくこと)と高齢化(高齢者の数が増えていくこと)が必然的に同時進行するわけではない。両者はまったく別の現象だ。アメリカとニュージーランドはそのことを示している。
GDPを見てみると、アメリカはさすがに資本主義経済を代表する国であり、右肩上がりの成長を続けている。世界中の人材は、優秀であろうとそうでなかろうとこの国を目指そうとする理由がわかる。ニュージーランドとサウジアラビアも同じく、右肩上がりの成長をしている。
人口と経済の相関
このことから人口増加(特に生産年齢人口)と経済成長は相関しそうに見えるが、必ずしもそうとはいいきれない。南アフリカ(とブラジル)が反証事例となっているのだ。この国の総人口は1950年から2060年までの110年間、右肩上がりに増加していくものの、2011年から名目GDPは横ばい局面に入っている。また、逆のパターンとして、日本が人口減少しても経済縮小しないという事例を提供しており、両者の相関性を否定している。
このように「人口増加すなわち経済成長だ」と一般化できるわけではないが、反証事例が多く出てくるわけでもないため、私は、この認識は一定の留保付きで正しいというぐらいの捉え方をしている。
アメリカの覇権の行方(続き)と日本の選択
本編でアメリカの覇権について、21世紀中も続いていくだろうと予想した。中国は激しい高齢化によりこれから失速し、インドも今後20年ぐらいは拡大するものの途中で息切れするだろう。ロシアに関しては、アメリカの覇権に挑戦する意志はあり闘志をむき出しにしているが、そもそも基礎的な能力が全然足りていない(詳しくはこちら)。
人口動態、経済力、軍事力、ソフトパワー面において、いずれもアメリカを超えるような国は予想しうる将来出現しそうにない。たしかにアメリカ社会の実態はこれまでもかなり危うく、理想的な民主主義国家とは程遠い。近年の社会的分断によりさらに危うくなっているように思われるが、先進国には珍しく「この国には明るい将来があるはずだ」と夢を見させてくれる国ではある。
現在、中国は十分大きくなり、インドは成長の只中にいる。今後四半世紀ほどかけて東南アジア諸国が大きくなり存在感のピークに達するだろう。人口規模では今世紀後半からサブサハラ・アフリカの存在感が極めて大きくなってくる。
そうした中で、アメリカは1950~60年代の一人勝ち状態で圧倒的な存在感を示していた時期と比較すれば徐々に小さく見えるようになっていくだろう。「圧倒的1位から相対的1位」になっていくわけだ。こうした変化は、1世紀以上の時間をかけてゆっくりと進行していく現象であり、少なくともすでに生まれている人間が生きている間はアメリカは相対的1位のポジションを維持し続けるだろう。
アメリカの覇権が21世紀も続くというのは、このような意味においてである。人口動態を見るとわかるとおり、アメリカ、イギリス、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアのアングロサクソン諸国は、小国たる北欧の国々を除く先進国と比較して非常に元気なため、今後もアメリカを筆頭とするアングロサクソン諸国のアライアンスによって世界はリードされていくだろう。
イギリスは、2016年に大陸ヨーロッパから離脱するという選択をしたわけだが、短期的な経済的メリットを捨ててでも長期的に世界のアングロサクソン諸国とやっていくという文明論的選択をしたとも捉えうる。
日本も将来の世界を可能な限り正確に予想した上で、どのように立ち振る舞っていくか常に考え続けていく必要がある。そして、私自身は、アングロサクソン諸国と良好な関係を維持し続けることを優先すべき、という立場をとっている。