シリーズ「世界の人口」のまとめ①-人口減少国家-
シリーズ内の記事一覧
「未来の歴史を描こう」と思い立ち、立ち上げたシリーズ「世界の人口」では、ここまで世界の主要国の人口動態を3つのグループに分け、それぞれの特徴を検討してきた。一覧にまとめると次のようになる。
1 総人口が減少するグループ
2 総人口が一定になるグループ
b 将来一定する国
3 総人口が増加するグループ
総人口が増加するグループ
今回はシリーズのまとめとして、「1 総人口が減少するグループ」を取り上げたい。
すでに人口が減少している国
すでに総人口が減少し始めている国・地域を、旧ソ連圏・旧ユーゴスラビア圏、南欧、そして日本の3つに分けて考えてきたが、ここではそれらをまとめてみたい。なお、GDPに関しては、世界銀行の2022年(最新)のデータを参照している。
旧ソ連、旧ユーゴスラビア圏
旧ソ連と旧ユーゴ圏の特徴は、総人口と生産年齢人口が1980~90年をピークに減少局面に転じるにもかかわらず、2000年代から急速に経済成長し始めることだ。ソ連とユーゴスラビアの解体とその後の経済的・社会的混乱の時期を経て、社会経済が安定し始め、成長段階に入るのがちょうど2000年代ということで、スタート地点が低かったことがこの急成長の要因だろう。
しかし、2010年代からはその成長にも陰りが見え始め、ここ10年ぐらいは停滞局面に入ってしまった国が多い。これらの国には1950年から70年代に生まれた層が多く、80年代以降は少子化が進んでいるため、これから高齢社会に突入していく。経済成長面では、低位置からのスタートしたことの利点をすでに食い尽くしてしまった感があり、今後は日本の後を追う形で(一部の例外はあるかもしれないが)「衰退途上国」に転じていくだろうと予想しておく。
南欧
イタリア、ポルトガル、ギリシャに代表される南欧諸国は、総人口が日本と同じく2010年ごろに頂点に達し、そこから減少局面に入った。それにリーマン・ショックが相まって、順調に拡大してきた経済が衰退局面に入った。ギリシャに限っては、GDP(名目、ドル建て)が2008年のピークから40%も減少してしまっている。
これらの国々も少子高齢化の最中にあり、高齢化率はあと25年ほどで35%~37%に達する。どう見ても「衰退途上国」だ。出生率も1.3強と東アジア並に低い水準にあり、今後、社会経済が活況を呈する要素は見当たらない。
日本=人口減少国の模範例
そして我が日本だ。人口動態の傾向としては南欧諸国と同じとみなしうる。総人口も同じ時期に減少し始め、出生率も1.3前後、高齢化率も2050年ごろには38%弱となる。
しかし意外なことに、GDPに関しては、日本は奮闘している。1990年代半ばまで拡大傾向を続けるのだが、それ以降は(ここ数年の急ピッチの円安局面を除けば)横ばいで踏みとどまっており、南欧のように減少することはない。「下には下がいる」式の認識方法は褒められたものではないが、旧ソ連・旧ユーゴ圏や南欧諸国に比べるとよくやっていると評価することができるだろう。
今後、日本を追いかける形で中国、韓国、台湾、ドイツ、インド、東南アジア諸国が人口減少局面に突入するが、日本は意外にも「人口減少国の中の優等生」として模範例になってもおかしくない。彼らは現在、自国の将来人口を見据えながら、「日本のようになるまい」と研究していることだろうが、事実を知れば見方が変わるはずだ。「日本のようになろう」と。そして、一度人口減少局面に入るとそれを上昇トレンドに逆転させることはほぼ不可能なため、その目標は現実的で正しい。
今後減少し始める国
総人口が現在ピークの段階にあり、これから減少していく国は、東アジア諸国、タイ、ドイツの3つに分けられ、その他として旧ソ連圏、旧ユーゴ圏、スペイン(南欧)が加わる。
東アジア諸国
ここには、中国、韓国、台湾、北朝鮮が含まれる。北朝鮮を除き、いずれも出生率が極端に低い。中国は約1.1、台湾も1.1前後、韓国に至っては1を割り込んで0点台に突入している。
将来の高齢者率も凄まじい。中国の高齢者率のピークは2080~90年代で、中位推計で約40%と日本と同水準だが、出生率がさらに低下すれば57%まで跳ね上がることになる。韓国にいたっては、中位推計ですら2080年に47%に到達する。台湾は日本に20年遅れで40%に達する。このように東アジアでは、高齢者が若者を押しつぶす社会が続出することになる。
北朝鮮の出生率は約1.8と地域内では高い方だが、周辺国と比較して経済規模が極端に小さく、アフリカ並だ。一人あたりのGDPは約1300ドルと推定され、これはタンザニア、ベナン、ザンビア、ネパールといった国と同水準であるにもかかわらず、出生率は先進国並みというアンバランスさを呈しており、例外としておもしろい国だ。
北朝鮮の現体制が崩壊するようなことになれば、旧ソ連圏と同じく混乱期を経て急成長期に入り、10~20年後に停滞局面に入ることとなるだろう。現体制が続く限りは、おそらく今の傾向が続くだろう。
タイ
人口動態面でも経済面でも東南アジアの先進国として君臨するタイ。出生率はすでに1.4ほどと先進国水準で、1970年代前半から少子化局面に突入した。その一方で、高齢者は増加中で、東アジア諸国と同じく2080年代には高齢化率が39%まで増加する。
経済的にはアジア通過危機を乗り越え、2000年代から急拡大してきた。しかし、10年ほど前に生産年齢人口は減少局面に入り、これから総人口は減っていくことを考えれば、現在が経済的にもピークではないだろうか。日本のようになんとか持ちこたえるか、南欧のようにジリジリ後退していくか、現在はその分水嶺にあたる。
21世紀半ばから減少し始める国
2050年~80年ごろに総人口がピークに達し、そこから減少局面に転じる国として、南アジアにインドとバングラデシュ、東南アジアにインドネシア、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、フィリピンなどが挙げられる。中東にはイラン、トルコと非アラブ国家があり、北アフリカにはチュニジア、モロッコがある。そしてラテンアメリカ諸国のほとんどがこのグループに入る。
これらの国々は、人口動態的にまだ伸び盛りの国であるが、そのピークもすでに見えており、それを堺に減少していくという特徴を示している。上記の人口衰退国と同じく、出生率は低下傾向にあり、高齢者は激増していく。
多産多死社会から多産少子社会を経て少産少死社会に移行していくという、いわゆる「人口転換理論」は、人間社会に普遍的に適用できる数少ない理論だが、これらの国は多産少子から少産少死に転換している途中にある。
経済面では、インドのように力強く成長し今後も成長が期待される国がある一方、ブラジルのようにここ10年ほど停滞している国もあり、さらにはイランのように大失速している国もある。このようにこのグループには規則的な傾向が見出しにくいのだが、先を走る「先輩国」の動向を見る限り、あと20年ほど成長した後にピークアウトしていくのではないだろうか。
ここでも参考になるのが日本だ。東アジア諸国のみならず、それに続いて人口減少国となるこれらの国々にとっても日本は格好の見本例となるだろう。