世界の人口増加国家④-3.5倍~6倍に増える国-
3.5倍になる国
前稿ではこれから2100年までに人口が2.5倍~3倍に増加する国を取り上げた。今回は、世界の人口シリーズの最終回で、今後75年間で総人口が約3.5倍~6倍になる国を見ていきたい。
まずは、3.5倍になる代表国は、セネガル、チャド。
次に、4倍になる国は、マリ、コンゴ民主共和国。
最後に、6倍になる国は、ニジェール。
さすがに75年間で3.5倍以上の極端な増え方をする国は、サブサハラ・アフリカ地域にしか見られない。前稿でも述べたが、サブサハラ・アフリカ諸国の人口推移は基本的に右肩上がりの傾向を示すのだが、その中でも上記の国々の増加スピートは凄まじい。
日本との比較
日本の場合、江戸時代末期から明治時代に入る頃の人口は推定3000万人で、これが2倍になるのは約60年後の1920年代だ。3倍の9千万人に達するのは明治元年から起算して約90年後の1950年代。そして、同じく約120年後の1980年代に4倍の1億2千万人に到達し、ほぼそこで頂点を迎える。
日本の総人口が4倍増加するのに120年要したのに対し、上記の国々はそれをわずか50年から80年ほどで達成するのだ。明治初期から1990年の日本も著しい社会変動を経験したは、これらの国々はさらに激烈な変動を経験することになるだろう。
アフリカは資本主義の「最後のフロンティア」か
アフリカは、人口増加に伴い経済成長が期待されるため、資本主義の「最後のフロンティア」と評される向きもあるが、現実には経済成長していても人口増加が激しいため、一人あたりのGDPが全体のGDPの伸び率よりもずっと低いという状況が見られる。いわば経済成長の果実を人口増加が食ってしまっているわけだ。
そうした中で一部富裕層も誕生しているが、大半の庶民はそれほど成長の果実を得られていない。とくに増加する若者の多くは、フォーマルセクターの仕事にありつけず、小商いに従事したり、寄る辺なくたむろしたりしながらその日暮らしを続けている。
このような全体構造の中で、サヘル地域の諸国は、外部環境の悪化が手伝って政情不安に陥っているのだが、アフリカ諸国は国内的には人口の爆増問題と雇用問題、国際的には中東・北アフリカから流入してくる暴力的過激主義の問題を抱えているため、手放しで「最後のフロンティア」と言祝ぐことはできないだろう。中国・東南アジア・インドに続いてアフリカが経済的「テイクオフ」を実現し、成長軌道に入るというのは楽観的すぎる見方ではないだろうか。
なお、本稿もこちらのエントリー(政治変動はなぜ起きる/起きないのか?)の内容がベースとなるため、あわせて参照いただきたい。
各論
セネガル、チャド
セネガルについては、以前こちらで触れたため詳述しないが、構造要因は極めて危うい。現在の約1800万人の人口が50年後には約2.6倍になり、75年後の2100年には約3.5倍になる。出生率は4台前半でアフリカでは並の水準だ。若年人口が急増する「ユースバルジ」が発生している真最中であり、「若いエネルギー」に満ちあふれている。
構造的な不安定さを抱えつつも、表層次元にある民主政の踏ん張りでなんとか安定性を維持している状況だが、これがいつ崩れ、いつ社会的に不安定化したとしても不思議ではない。
チャドに関しては、1か月ほど前に大統領選が行われ、暫定軍事政権のイドリス・デビィ暫定大統領が正式に大統領に選出された。しかし、こちらも構造要因の人口動態の不安定さに加え、東にはスーダン、北にはリビア、西にはニジェールと政情不安定国を抱える地政学的状況だ。
セネガルと同じく、これから25年間で人口は2倍に、50年間で2.8倍になる。出生率は6を上回っており、「ユースバルジ」の最中で、不穏な雰囲気を醸し出している。残念ではあるが、そう簡単に社会が安定化することはないだろう。
マリ、コンゴ民主共和国
マリも現在クーデタ政権が実権を握っており、反フランス感情が高揚している。総人口は今後25年間で2倍、50年で3倍、75年で約4倍となる。出生率は6弱でアフリカの中でも高い部類に入り、「ユースバルジ」の只中にいる。
コンゴ民主共和国は、独立以来一度も政治が安定したことないといえるレベルの国だ。この国の特徴は、人口面で中小規模の国が多いアフリカの中でかなりの人口大国であることが。総人口は現在1億人を超えており、これから25年で2倍、50年で3倍、75年で4倍になる。出生率は約6で、こちらも「ユースバルジ」の最中だ。
マリもコンゴ民も構造的な安定化への道筋はなかなか見出せない。
ニジェール
最後に、世界で最も人口増加が激しい国がニジェールだ。出生率は7弱と世界で最も高く、総人口はこれから25年で2.5倍、50年で4.4倍、75年で6.2倍と倍々ゲーム式に増えていく。
内陸国であり、国土の大半が砂漠地帯で可住地面積は極めて少ない。ニジェールは2100年には総人口が1億6700万人に達すると国連により予想されているわけだが、この環境下でこれだけの人口を収容できると想像することはできない。
人口動態の将来推移が破滅的な上、経済を牽引するセクターが鉱物資源や化石燃料しかなく、水資源や森林資源に乏しい。この中で将来どうやって生き残っていくかと考えると、楽観的なストーリーを描くための要素が少なく、悲観的な未来しか思い浮かばない。