G-5YSV44CS49 世界の人口増加国家②-1.5倍~2倍に増える国-|歩く歴史家 BLOG

世界の人口増加国家②-1.5倍~2倍に増える国-

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1.5倍になる国

前稿では世界の人口増加国家を4グループに分け、第1回目として、これから2100年までに人口が20~30%ほど増加する国を取り上げた。今回は、今後75年間で総人口が1.5倍~2倍になる国を見ていきたい。

まずは、1.5倍になる国は次のとおりだ。

オーストラリアカナダアルジェリアカザフスタン

75年で1.5倍というのは、かなり適度な増え方と言えるだろう。都市インフラや社会インフラの供給不足に見舞われることはなく、かつ安定的な経済成長を目指すにはほどよい具合だろう。

2倍になる国

続いて、2100年にかけて2倍になるのは次の国だ。

イスラエルエジプトパキスタンケニアガボン

75年で2倍になる(年率約1%の増加)というのは、革命や政変などの政治・社会変動を考えると、許容範囲の上限ではないだろうか。ひょっとするとそれを上回っているかもしれない。(政治変動が起こる原因についてはこちらで推論したため、参考に目を通していただきたい。)

各論

オーストラリア、カナダ

この両国は、地理的に離れているものの人口動態の様相はよく似ている。さらに、アメリカ、イギリス、ニュージーランドを加えたアングロサクソン国家の人口動態はかなり安定しており、総人口が減少する国がひとつもない。

その背景には、右往左往しながらも移民を受け入れていることがあるのだろう。アメリカの白人人口の減少が物語るように、アングロサクソン系住民だけでは人口は減少していく運命にあることを考えると、先進国が自力で人口を再生産していくことは無理で、若年人口増加地域から移民を招き入れるしか方法はないのだろう。

アルジェリア

同じ北アフリカに属し隣国であるチュニジアやモロッコの総人口が2050~70年頃にピークに達するのに遅れて20年ほどでアルジェリアもピークに達する。そこから減少し始めると予想されるため、この3か国は大まかには同じタイプに属する。アルジェリアは多少増加の量が大きいのが相違点だ。

アルジェリアは2010年代にベビーブームを経験しているため、彼らが20代になる今後10年間で大きな社会変動が起きてもおかしくはない。

イスラエル

この国は先進国であるにもかかわらず、現在の出生率が約3であり、異常値といえるほど高い(他の先進国は高くても1.7程度)。その要因は、周囲の中東諸国の出生率が高いためその影響を受けていることと、より深刻で差し迫った都合として、なによりもそうしなければ国民国家として生存していけないことがあるだろう。

これから2100年までの中東・北アフリカの総人口に占めるイスラエルの人口の割合は、1.6%~2%弱で推移する。イスラエルの人口が増え続けるからといって、地域内では異質なマイノリティであり続けるのだ。人口を維持するどころか増やし続けたとしてもこの程度の割合でしかないため、イスラエル人(特に右派勢力)は絶えず危機感にさらされていることだろう。

昨年10月に始まり今でも続くパレスチナへの異様なまでの報復攻撃は、生存危機を感じるイスラエルのヒステリックなまでの過剰反応に見えるが、ここまでいくとジェノサイドとみなされても仕方ないだろう。ハマスへの報復攻撃自体は、イスラエルの自衛行為として正当性を持つが、報復の方法と程度が明らかに不正だ。 これを続ければ、ナチスの迫害を受けたユダヤ人国家が同じことをパレスチナ人に行っていることとなり、建国の正統性を自ら破壊してしまうこととなる。次の世代のアメリカがイスラエルを支持するかは危うく、もしアメリカの支持を失うこととなればイスラエルは暴走し、自壊していくことになるかもしれない。

エジプト

2011年に発生した「アラブの春」の中心舞台となったエジプト。典型的な「ユース・バルジ」が引き起こした政変だったと言える。その当時10代後半~20代だった世代はベビーブーム時代に生まれた世代と言えるが、今現在の同じ年代はさらに数が多い。もう一悶着、二悶着起きたとしても不思議ではない。

パキスタン

パキスタンに関して、私は世界の中で最不穏な雰囲気を醸し出している国と見ている。国内的には現在若年人口が爆発している最中であり、政治・社会変動がすぐにでも起きそうな人口動態上の様相を呈している上に、核兵器の保有国である。

もしパキスタンで政治変動が起きれば、ソ連崩壊に続く核兵器保有国での政情不安となる。そのときにこの国が理性を持って核兵器を管理できるかといえば、相当危ういため、世界にとっての最大のリスク要因になる。見方によっては、現在起きているウクライナ問題やパレスチナ問題よりもパキスタンの人口問題のほうが世界にとって深刻な問題であるとも捉えうる。

ケニア、ガボン

ここに至ってようやくサブサハラ・アフリカの国が登場する。この後のエントリーでアフリカ諸国が続々と登場して来るが、この両国の人口の増え方は相対的に落ち着いている。

しかし、そうしたガボンでさえ、ベビーブームが長期間続きユース・バルジを経験したことによりクーデタが発生した(詳しくはこちら)。その原因は、表層にあるガバナンスの正統性が揺らいでいたためだ。

政治的に安定しており親米国家であるケニアは、私の見方では表層の政治的ガバナンスの基準はクリアしている。中層の社会経済的要因だが、サブサハラ・アフリカでの成長国家の代表国の一つとして評され、実際に近代化にある程度成功しているようだ。日本企業も積極的に進出できるほどの安定性はあるため、一応クリアしているだろう。

問題は深層の人口要因だ。チュニジア、エジプト、パキスタンのように強烈なベビーブームが続き、若年人口割合が非常に高く、いかにも「ヤバそう」な様相を呈している。ケニアの為政者の優先課題は、増え続ける若者が「危ない道」に落ち込まないよう彼らをいかに社会経済活動に包摂するかだ。

プロフィール
歩く歴史家
歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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