世界の人口安定国家②-将来の安定国-
将来安定期に突入する国
前稿では、人口安定国家を、総人口が①すでに安定期に突入しており、今から2100年までに10%以内の増減率に収まる国と、②今後も一定期間増え、そこから横ばいに転じる(減少しない)国の2つに大別し、前者について見てきた。本稿では後者について見ていきたい。
その代表国を挙げると次のようになる。
この3か国の共通点を挙げると、2050~60年あたりまで人口が増加し、そこから横ばい局面に突入することだ。増加の速度はアメリカとニュージーランドが緩やかで、サウジアラビアはかなり急であるのが相違点だ。
各論
アメリカ合衆国
詳しくはこちらで書いたが、アメリカは先進国では珍しく総人口が増加していく国と言われる。これは間違いではないが、後に触れることになるアフリカ諸国のように鰻登りに増えていくわけではなく、かなり緩慢に増えていく。そして2050~60年頃から増加は頭打ちとなる。
さらに、人種別の将来の人口予想を見てみると、白人は緩やかに減る一方、ヒスパニック系が急増する。白人とその他という二分法をとるなら、2050年には白人はマイノリティ集団となる。これから半世紀後のアメリカは、現在とはずいぶん違った国に様変わりしていることだろう。
ニュージーランド
人間よりも羊の数のほうが5倍多いニュージーランド。私が初めて外国を訪れたのはこの国だった。牧歌的な印象でイギリスの田舎を移植してきたような風景が広がっていた。
総人口が約500万人と小さい国家で、地理的にも世界の主要物流ルートから大きく外れているため、マイナーな国であるが、一人あたりのGDPでは日本より上。2060年頃まで総人口は微増し、その後は横ばい期に入るというふうに人口バランスがとてもよく安定している。
国際政治的には、アングロサクソン国ということでファイブ・アイズ(英米、オーストラリア、カナダ)の一角を占め、太平洋島嶼国の支援や情報交換に協力しているようだが、存在感は最も薄い。北半球の大国政治のトラブルから距離を置ける位置にあるため、自然災害に見舞われない限り、2100年までもその後もこのまま安定的な小国をやっていられるだろう。課題は、いかにグローバル市場についていくか/そこから見放されないか、だろう。
サウジアラビア
中東の中のアラブ国家としては最も早い時期に人口安定国に突入する国だ。近年は緩和傾向にあるようだが、イスラムの保守本流で西洋近代の価値観とは完全に反りが合わないながらも、天然資源の重要性ゆえにそのまま存在している。財源の7割を石油関連収入に依存するレンティア国家(天然資源からの収入に依存する国)で、人口の半数が外国人という移民国家でもある。
総人口は2060年頃まで右肩上がりに増え続けるが、それ以降は横ばい局面に突入する。生産年齢人口はあと10年ほどでピークに達し、若年人口にいたっては現在がピークだ。チュニジアに端を発する「アラブの春」を乗り切り、若年人口が右肩上がりに増える「ユース・バルジ」の局面は脱したといえる。
UAEやカタールのように外国人人口が9割を超える同じレンティア国家に比べ、サウジアラビアは自国民が多いため、原油価格の下落の影響を外国人という調整弁を切り捨てることによって凌ぐことはしにくく、若年層の雇用問題に真摯に向き合わなければならない。
サウジアラビアも世界のリベラル化と世俗化の波を受けることにより少しずつ開放的になっていくと思われる。急激な政治変動が起こるとすれば、国際原油価格が暴落しレンティア国家を維持できなくなったときだろうが、徐々に若年人口の割合が小さくなっていくことを考えると大きな変動はないかもしれない。
より現実的にありそうなのは、脱化石燃料という世界のマクロ潮流と国内の高齢化により、徐々にレント収入では人口を支えきれなくなり国が衰退していくというパターンで、サウジアラビアはこちらの道を辿るだろうと予想しておく。
アメリカの覇権の行方
人口動態から将来の世界の覇権の行方を占ってみると、おそらくは今後もアメリカの覇権は長期間続くだろう。覇権に対する挑戦者の筆頭は中国であるが、すでに人口衰退局面に転じ、20年~10年前の勢いはなくなってしまった。
2番目の挑戦者候補はインドだろうか。インド自身にアメリカに対して敵対的な挑戦をする意志はないだろうしその理由もないのだが、仮にその意志があったとしてもインドはアメリカと同じ時期に総人口がピークを付け、そこからアメリカを超えるスピードで減少していく。より早く「ガス欠」するのはインドだろう。
現実的にアメリカに挑戦することのできそうな国・中国・インドは両方とも勢いに陰りが出るだろうが、とはいえ、その図体の大きさゆえに世界の巨大勢力として存在し続けるだろう。しかしその中でも、覇権はアメリカに残ったまま世界は22世紀を迎えるだろうと私は予想している。世界の近代史はこれまでアングロサクソン諸国を中心に展開してき、今後もそうなっていくだろう。