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世界の人口安定国家①-安定期突入国-

歩く歴史家

2種類の人口安定国家

これまでは人口減少国家を、総人口が①すでに減少している国、②これから減少し始める国、③21世紀半ばから減少し始める国に分けて見てきた。今回からは人口が安定期に入っている国を2回に分けて取り上げていく。

人口が安定期に入っている国を大別すると、総人口が①すでに安定期に突入しており、今から2100年までに10%以内の増減率に収まる国と、②今後も一定期間増え、そこから横ばいに転じる(減少しない)国の2つになる。ここでは前者について見ていこう。

安定期に突入した国

ここでは、2024年現在ですでに人口増加が横ばい局面に突入し、これから2100年にかけて人口増加率が10%以内の増減に収まる国を「安定期突入国」と定義しておく。その代表国を挙げると次のようになる。

フランスイギリスオランダフィンランドチェコ

いずれもヨーロッパの国であり、相対的に高緯度に位置する国だ。わずかな差ではあるが、これら5か国を2つに分けると、2030~50年ごろまで微増し、微減に転じる前4か国と微増を続けるチェコとなる。

各論

フランス

少子化対策と子育て政策の参考例として取り上げられるフランスだが、人口水準維持の点で格段にうまくいっているかというと必ずしもそうではない。日本をはじめとする東アジア諸国、イタリアを代表とする南欧諸国よりも圧倒的に良好なパフォーマンスをあげているのは間違いないが、このあとのエントリーで紹介するスウェーデン、ノルウェー、カナダなどの国と比べるとやや見劣りする。「なんとか踏みとどまっている」という程度だ(それでもすごいのだが)。

フランスは、2000年代には出生率の回復が見られたが、2010年代後半からは微減に転じている。やはり先進国は政策的にかなりのテコ入れをしたとしても人口置き換え水準の出生率2.07近辺を維持するのは至難の技であり、多少の人口減少は免れないということなのだろう。しかし、数値にするとわずかな差に見える日本の約1.3とフランスの約1.8とでは、時間の経過とともに大きな違いが生まれることとなる。

イギリス

人口維持という観点でイギリスはフランスよりもパフォーマンスがいいが、出生率の点ではフランスに劣る。ということは、社会増(国外からの流入=移民)が多いということだ。インド系のスナク首相の誕生が象徴するとおり、イギリスは英連邦諸国からの移民流入により第二次大戦後の経済成長を遂げてきた国であり、多様なマイノリティの存在する国である。

私なりの感覚的な基準ではあるが、人口5千万規模の先進国という条件を付ければ、やはり自然増(出生率の増加)によって人口を維持することは難しいだろう。人口水準の維持を目的にするのであれば、移民の受け入れは不可避のようだ。

オランダ

こちらはフランスに似たタイプである。2040年ごろに総人口がピークに達し、そこから微減に転じる。オランダも移民国家であり、早い時期に移民の排斥を訴える極右政党・自由党が台頭し、直近の議会選挙では第一党となった。

安楽死や同性婚の合法化、大麻の「非刑罰化」という事実上の合法化など、リベラルな政策を世界に先駆けて打ち出してきたオランダも移民の流入によって総人口の水準は維持できるものの、社会の内部には移民をめぐる亀裂が入っているようだ。

フィンランド

この国は、安定期突入国に分類されるものの、近隣のスウェーデン、ノルウェーとは多少違った様相を見せている。それらの国は今後も人口増加していくのだが、フィンランドは微減していく。地理的にもそうであるように、人口面でもスウェーデンとロシアの中間のような形を示しているのが面白いポイントだ。出生率はスウェーデンに比べて低い。

この国はロシアと1300kmにわたる国境を接しており、歴史的にロシアと緊張関係を常に強いられてきた。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとして、2023年4月にそれまでの中立政策を転換しNATO加盟を果たしたわけだが、対立国に囲まれるイスラエルの出生率が先進国の中で突出して高いことに鑑みると、フィンランドもこのままロシアとの緊張関係が高まれば出生率が上がることも考えられる。

チェコ

今回取り上げる国の中で一番面白いのはチェコだ。この国は、旧ソ連圏の中で人口が減少しない稀有な(おそらく唯一の)存在で、元同じ国のスロバキア、近隣のドイツ・ポーランド・ハンガリーが軒並み人口衰退していく中で孤軍奮闘するダークホースだ。2015年に私はプラハを旅行したことがあるが、町並みもきれいで物価も安くいい国だった(アイキャッチ画像は筆者撮影)。

総人口は40年前からほぼ一定で、ソ連崩壊後に少子化が急激に進んだものの、その後V字回復し、現在、出生率は高水準を保っている。高齢化率も適度な水準で、人口動態からすると理想的な定常国と言えるだろう。この実績からすると、日本の人口問題を考える上で、フランスに加えてチェコから何か学ぶべき点があるかもしれない。

人口安定突入国のまとめ

以上、人口安定突入国を見てきたが、これは総人口がほぼ一定しているという意味である。その内実を見てみると、(チェコを除いて)少子化と高齢化は進む。だが、そのスピードは東アジア諸国よりもずっと緩慢である。その上、出生率が日本などの低出生国よりも高いため、高齢化率は東アジアほどの水準には達しない(どうしても30%を超えてはしまうが)。つまり、程度も軽い。

人口動態の変化が緩慢であるということは、そのための対策も行いやすく、ある特定の世代が集中的に割りを食うということにならない。世代間格差が小さいという意味でも東アジアに比べて安定している。こちらでも述べたが、日本はこの後の記事で触れることになる国々のように人口増加は期待できない以上、目標にするべき国は現実的にはドイツであり、最大限理想を膨らませたとしてもチェコまでだろう。

プロフィール
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歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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