G-5YSV44CS49 日銀総裁公選制を導入しよう!|歩く歴史家 BLOG
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日銀総裁公選制を導入しよう!

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日銀の影響力

日本銀行の影響力はとてつもなく大きい。その総裁は、私の感覚では首相か財務大臣並の影響力を持っている。日本の行政機関の主要ポストである総務大臣、法務大臣、外務大臣、厚生労働大臣、文部科学大臣、その他の大臣や、数が多すぎる国会議員、その活動内容がいまいち伝わってこない上に国民審査が形骸化している最高裁判所の裁判官よりも、国民一人ひとりの日常生活を左右するという意味で影響力が大きい。政策を一歩間違うと国民生活が破綻してしまうほど破壊的な影響力を持つ。

最初に、日本銀行法の冒頭部分を引用しておけば次のとおりだ。

(目的)

第一条

  1. 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。
  2. 日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。


(通貨及び金融の調節の理念)

第二条

日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。


(日本銀行の自主性の尊重及び透明性の確保)

第三条

  1. 日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。
  2. 日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければならない。


(政府との関係)

第四条

日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。


(業務の公共性及びその運営の自主性)

第五条

  1. 日本銀行は、その業務及び財産の公共性にかんがみ、適正かつ効率的に業務を運営するよう努めなければならない。
  2. この法律の運用に当たっては、日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない。

日銀の役割、中央銀行の独立

日銀法に書かれている役割を端的にまとめると、①銀行券(紙幣)を発行する、②通貨と金融の調整により物価を安定させる、③金融システムを安定させる、の3つとなるだろう。日銀はこの役割を果たすことにより、国民経済が発展するよう努めなければならないわけだ。

日本を含む世界各国で、政府が自己に都合のよい金融政策を実施したり、無責任な通貨の発行を繰り返してきた歴史から、中央銀行の独立性が尊重されなければならないという規範が生まれ、現在は世界中どこでもそのように運用される建前となっている。そして、日銀法でもそのように定められている(第三条1項)。

こうして各国・地域の行政府と中央銀行は常に緊張関係にあるわけだが、日銀法第四条には「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」と半ば矛盾したような文言が書かれている。日銀の政府に対する「忖度」を生む温床となりそうな文言だ。

日銀総裁選抜の不透明さ

上述の役割を担う日本銀行が実施する金融政策は、国民全員の生活に直接的に影響する。例えば、日銀が金利を調整することにより、日本最大の産業セクターである不動産業界にリニアに影響を与える。住宅ローンを変動金利で借りている個人や不動産投資家・ディベロッパーなどにとっては、政策金利の上昇は死活問題だ。仮に日銀が2022年のFRB(米国連邦準備制度理事会)のように急激に利上げを行えば、日本で破産する人は万単位で出てくるだろうし、自殺者が大量発生するだろう。

他にも為替への影響力もあり、円の価値が変動することで、食品や生活必需物資に影響が出ていることは今現在経験している最中だ。

このように日銀は極めて重要な役割を担っているにもかかわらず、そのトップが選抜されるプロセスは極めて不透明だ。制度的には国会両院の過半数の賛成を得て、内閣が任命することになっているが、問題は候補者がリストアップされ、国会で審議されるまでのプロセスがブラックボックスになっていることだ。

第三条2項に意思決定の内容と過程を国民に明らかにするよう努めなければならないと定められているにもかかわらず、選抜の最初の段階からして透明性がないため、その文言を達成できようはずもない。現行制度ではスタートからつまずいているのだ。

日銀総裁公選制のメリット・デメリット

そこで日銀法の立法趣旨を貫徹するための最適な方法がある。日銀の総裁を直接選挙で選ぶことだ。これはいわば「日銀総裁公選制」だが、その目的は、日銀が独立性と透明性をもって政策を実施することである。

メリット

日銀総裁公選制の導入による国民にとってのメリットを挙げると次のようになるだろう。

・日銀が実施する金融政策の責任の所在が明らかになる。

・総裁に政策責任を負わせることができる。

・金融政策に失敗したら選挙で総裁を替えることができる。成功したら続けてもらうという選択もできる。

・若い総裁が出てくる可能性が(現状よりは)高まる。

さらに日銀総裁自身にとっても次のようなメリットがある。

・選挙による選抜のため、「民意」という正統性を調達できる。

・自らの政策を堂々と訴え、実施できる。(「堂々と」というのは、「政府に忖度せずに」という意味だ)。

・同じく、「民意」を盾にして独立性を堂々と主張でき、政府の介入を阻止できる。

・政策運営に成功すれば実績を自分のものにでき、社会的名誉が与えられる。

公選制を導入するにあたっての最大の問題は、候補者が政党に属してよいのか(政党が候補者を出すのか)を定めなければならないことだろう。選挙には政党色がついて回るのは不可避であるが、各候補者が政党色を帯びていたとしても、現行の不透明な与党=内閣選抜制により政権政党と癒着する(といって悪ければ、政権の意向に沿って政策運営を行う)よりはましだろう。当然、どこにも属さない独立候補が出るのを妨害してはならない。

デメリット

国民にとってのデメリットは、最高裁裁判官の国民審査のように候補者の良し悪しが判断できないことだろうか。しかし、公選制を導入すれば、候補者は自分の実績と政策を有権者に説いて回るだろう。

総裁にとってのデメリットは、政権を転嫁できなくなることだろう(建前は今も同じなのだが)。政策運営に失敗し次の選挙で落とされた場合、(候補者は高齢な人が多いだろうから)不名誉なまま余生を送らないといけないというリスクもある。これは再登板のチャンスを確保しておけばよい。

政府にとっては金融政策に介入する余地がなくなり、重要な政策手段を失うことになるのがデメリットだろう。よって、政府は日銀総裁公選制を導入するインセンティブは持ち得ないどころか、積極的に妨害するだろう。しかし見方によっては、金融政策の権限と責任を日銀に移譲できるため、他のことに集中できるようになるとも考えられる。

公選制を導入するための具体的方法はいろいろありうるだろう。職務内容が極めて専門的であり高度な知識を要求するため、どのような基準で候補者をリストに載せるのか、誰がそれを行うのかが重要になる。選挙をどのタイミングで実施するのか(衆議院選挙と同時か別か)、任期はどうするのかといった問題もあるが、これらの問題は細かくテクニカルな話であり、あまりおもしろくないためここでは触れない。

最後に、日銀総裁公選制を導入する目的は、民主主義の原理に則り独立性と透明性をもって金融政策を行うことであるため、導入したからといって金融政策がうまくいくという保証はない。他のあらゆる政策と同じく、両者は別の次元の話だ。だが政策がうまくいかないからといって選挙をやめようということにはならないように、このことは日銀総裁公選制の欠陥とはならない。

結局、民主政国家では政策の成否は国民にかかっているということだ。失敗したとしてもその過程で学んでいけることが、日銀総裁公選制を含む民主政の利点だ。

プロフィール
歩く歴史家
歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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