外国人と日本人の「二重価格」-「安いニッポン」の原因は?-
二重価格のニュース
ここ数か月で日本を訪問する外国人と日本在住者に対して価格に差をつけてモノやサービスを提供するという現象が起きているというニュースを目にするようになった。発展途上国の観光施設を訪れると、外国人観光客と現地住民の価格が準備されているというのはよくあることで(代表例はタージマハル)、タクシーの運転手などはあからさまに外国人をぼったくりのカモにしている。
このようなニュースを見るにつけ、いよいよ日本もここまで来てしまったかと嘆息せざるを得ない。インバウンド関連産業にとってはバブルの到来で喜ばしいことであり、日本経済の駆動セクターとなっている。これからは金を持った外国人しか相手しないという店や企業が出てくるはずだ。あるいはすでにそういう店もあるのだろうし、私が商売を始めるとしたらインバウンド客のみをターゲットとするだろう。
外国人観光客が大挙して押し寄せ、安くて品質のいい商品やサービス=「安いニッポン」を買うという現象が起きているわけだが、なぜこのような事態になったのだろうか。巷間で指摘される原因を列挙してみたい。
「安いニッポン」の原因
円安
日本が安くなりインバウンド客が大量訪日する理由は、なんといっても円安だろう。正確には、円安は原因というよりも「安いニッポン」と同義だ。
アベノミクス開始以降、円安基調にあり、近年ではアメリカがコロナ発生以後に大規模金融緩和を行ったことにより、アメリカで経済の加熱と強いインフレが発生し、それを抑え込むために2022年からFRBが政策金利を上げ始めた。
他方、日本ではようやく日銀がマイナス金利を解除したものの、依然として日米の金利差が広がったままであり、現在の日本円の実質実効為替レートは先進国で最弱どころか、途上国通貨と比較してもトルコリラを除いて最弱になっている。
デフレと労働者の賃金停滞
1997年をピークに日本の労働者の賃金は減少傾向にあり、個人消費支出も横ばい。物価も上がらず、GDPはほぼ横ばいという状況が20年ほど続いている。直近の日本人の実質賃金も2年連続で減少している。
他方、その間、世界各国の経済は程度の差はあれ、成長し続けてきた。
貿易収支の赤字
2010年代には貿易収支が赤字を計上するようになり、日本の外貨を稼ぐ力が弱まってきた。GAFAMのサービスを使わざるを得ないことによるデジタル赤字、新NISAで外国株を購入することにより円売りが続くという構造になっている。(なお、経常収支は黒字を維持)。
経済力の低下
90年代には世界の競争力で1位だった日本は、現在では先進国の中で最下位グループに転落した。既得権を持つ昭和型の重厚長大産業がいまだに幅を聞かせており、デジタル化が一向に進まない。イノベーションが起きない。
利上げに耐えられるような経済力が日本にないため、日銀と財務省は自国の通貨防衛ができず、円が独歩安になっている。
人口の減少
これから2100年にかけて日本の総人口は半減する。生産年齢人口は90年代から減少傾向にあり、今後もその傾向は変わらない。出生数も最低を記録し続けている。人口が減少する国に市場関係者は魅力を感じないため、投資が呼び込めない。
事態を軽めに見積もる立場
日本の経済を見る専門家のうち、とくに日本人は自国の経済を悲観的に捉える傾向がある。一方で、事態を一時的なもので比較的軽めに見る立場もある。
曰く、(為替介入以外に特に使い道のない)外貨準備高が1兆3千億米ドル(約2千兆円弱)と潤沢にあり、南米やアフリカ諸国でデフォルトを起こすような国とは一線を画している。日本の国債は高格付けを維持しており、信用不安を起こしているわけではない。
アメリカのインフレの鈍化と景気減速により、FRBが金利を下げ始めると、日米の金利差が縮小し、円高ドル安になっていく。日本の国力低下など大げさに捉える必要はない。
経済・金融の専門家による指摘をざっと思いつく限りで列挙すれば、このようなところだろう。金融政策当局のさじ加減でコントロールできると考える立場から、人口動態の変化という構造的要因に遡る立場まで論調に濃淡があるわけだが、いったいどこまで事態を深刻に捉えるのが適切なのだろうか。
将来の予想(私見)
将来の為替相場の動向を言い当てることはできないし、今後の日本経済の動向を予測することも難しい。しかし、そこで終わってはおもしろくないため、私の肌感覚を述べておく(根拠はない)。
FRBによる政策金利の引き下げによって円高ドル安方向に推移する場合、1ドル=130円ぐらいまでではないだろうか。多く見積もっても120円が限界だろう。他方で、円安方向は160円を経験した現時点では天井がないよう(170円→200円と行きそう)に感じられるが、それもどこかで止まるだろう。
インバウンド客が押しかけているのは、国内外の価格差が大きな要因だが、その価格差も日本の賃金上昇を伴うインフレによって10~20年かけて埋まっていくのだろう。90年代には世界でも最も「高かったニッポン」も20年ほどかけて安くなっていったため、上昇にも同程度の年月がかかるだろう。
その中で日本が目指していくべきは、単なるインフレやコストプッシュ型のインフレではなく、労働者の賃金がインフレの駆動要因となる「人件費プッシュインフレ」だ。
こちらの記事で、私は2050年ごろに日本は復活するだろうという予想をした。現在はそれに向けた転換点に位置しているように感じる。