G-5YSV44CS49 アメリカ産業形態の4類型と今後|歩く歴史家 BLOG

アメリカ産業形態の4類型と今後

歩く歴史家

アメリカ経済は世界経済の縮図

2000年代から急成長を始め、今となっては世界のテック業界をリードするGAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)に注目されがちなアメリカ経済だが、全体を見渡してみると必ずしもこれらのビック・テックに限定されない。

アメリカは世界の産業形態の代表的なものを国内に内包しており、「世界の縮図」といってよい広がりを持っている。世界の産業形態を捉える上でモデルケースとなるため、ここでは4つの類型に分けて見ていき、今後のアメリカ経済の構造について考えていこう。

アメリカ産業形態の4類型

北部型=製造業

まずは北部の製造業だ。代表的なものは自動車産業で、20世紀前半からのモータリゼーションを牽引してきたフォード社やゼネラル・モーター社がある。北部製造業は、大量生産・大量消費に基づく産業が中心であり、生産物の品質、ブランド性、顕示性(見せびらかし効果)などを含んだ商品性を展開する。

ここでは、技術革新による労働生産性の向上に伴って労働賃金は上昇する。それが消費需要を生み出し、産業主導型の循環を生み出す。大企業体制によって労働者の雇用は確保されると同時に、政府による労働者保護と一定の範囲における産業保護政策も可能とする。そこに福祉政策が加わる。

南部型=モノカルチャー経済

南部型は、もともとの奴隷制度と植民地的プランテーションの伝統を受け継ぎ、資源や農産物(換金作物)などの第一次産品を生産する。いわば搾取型の経済類型だ。利潤の源泉は産業主義のように消費需要の拡張と技術革新による大量生産によって生産性の向上をはかるというより、生産コスト(とくに労賃コスト)を徹底的に(労働搾取によって)抑えこむことによって生み出される。

このプランテーションを基盤としたモノカルチャー型の経済類型は、もともと独立自営的であり、下支えしてきたのはアフリカ人奴隷であったが、現在は中南米から来る移民である。

東部型=金融経済

東部型は、ウォール街に代表される金融業やワシントンのシンクタンクのような知識産業に代表される。

西部型=ベンチャー経済

西部型は、GAFAMに代表されるビック・テックを含むベンチャー・ビジネスが主である。アメリカ建国以来西に向けて開拓が進められてきた自由なフロンティア精神を基盤とする。現在では野心的な世界の人材を集めており、GAFAMの経営層から見てもわかるように多くの出身国者が活躍する場となっている。

以上が4類型だが、厳密には地域と産業類型を対応させるのは多少無理があるものの、大まかな把握をするためにはこれら4類型は有効だろう。

アメリカ経済の沿革

第二次世界大戦後のアメリカ経済をリードしてきたのは北部型だ。1930年代の大不況以来ニューディール体制を支え、産業主導型成長モデルを支えてきた。民主党のケインズ的・福祉的政策、産業重視政策、労働者の権利重視と密接な繋がりを持ってきた。

しかし、アメリカは60年代のベトナム戦争、福祉重視制作により経済の疲弊、70年代のドル危機、石油ショック、スタグフレーションに悩まされ、79年にロナルド・レーガンが登場する。(なお、エズラ・ヴォーゲルによる『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が刊行されたのも79年。)

レーガン大統領は、経済の行き詰まりを打破すべく、北部型経済モデルを南部型へ転換する。目指す目標は、低賃金、労働強化によって利潤を確保するという搾取型経済へのシフト、政府介入を排した市場競争を強化することで、コスト競争を行い、労働や資本の市場での流動性を高めることであった。

この改革を製造業のような大規模産業に適用した結果、80年代、多くの企業は低賃金労働を求めて海外に進出した。いわば南部で行われていた奴隷労働を海外に求めたようなものである。北部の産業のように組合や雇用契約によって守られ、賃金上昇が常態化していった労働とは異なった、市場にむき出しの形で直面させられた労働力を低賃金で使用するようなった。

レーガン大統領は、規制緩和や金融の自由化政策によって北部型から東部型の金融経済と西部型のベンチャー・ビジネスへの転換も図った。これらに共通するのは本質に個人主義的であり、政府介入を嫌い、市場競争的であることだ。南部型の経済モデルが重視するのは、企業という組織に編成された労働力ではなく、組織化されない労働力である。

東部型の金融ディーラーやヘッジファンドも西部型のベンチャー・ビジネスも、人的ネットワークは重視するものの、本質的に組織にはなじまない自由でかつ知的な労働者だ。90年代のクリントン大統領はIT革命と金融革命を可能とする条件を作り出し、これらに比重を移すことでグローバル市場におけるアメリカの優位を決定的なものとした。

そして、唯一衰退する北部では、ラストベルトと呼ばれる地帯が出現し、取り残された白人労働者はドラッグやアルコールへの依存、「絶望死」に走ることとなる。政治レベルでは、彼らの支持を背景としたトランプ大統領が登場し、今年の大統領選挙での再選が現実味を帯びている。

アメリカ経済の今後:現状が続いていく

製造業のグローバル化が進展し、サプライチェーンが世界大で広がった現在、アメリカの製造業が復活するということはないだろう。50~60年代に全盛期を謳歌したアメリカの(中間層を形成していた白人労働者にとっての)「古きよき時代」は、90年代に消え去ってしまった。

そして今後も西部型、東部型の知識を基礎とする産業がアメリカを牽引しつつ、その裏で南部モノカルチャー型経済が並走するという構造は変わらないだろう。その中では、知能が高く意欲や忍耐力のある者が成功を収める一方で、知識社会から振り落とされる者は失業常態に留め置かれるか、低賃金のルーティンワークに従事せざるをえないこととなる。

この事態は、アメリカ自身が経済成長のためやむにやまれず実施した改革の結果であり、その改革は全体的に見れば成功したのであるが、これにより社会は分断されてしまった。この構造は誰が大統領になっても変わらないし、グローバル化というメガトレンドを覆すこともできないだろう。

当面の間、アメリカ社会は知識労働の西部型・東部型と非知識型の南部型が併存し、北部型は問題を抱えながら低空飛行を続けていくこととなるだろう。

プロフィール
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歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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