【将来予想】中国は社会の活力を失いながらも共産党体制はずっと続いていく
中国共産党支配はそれなりに頑強
1949年に建国された共産党一党支配体制の中国。73年目を経た中華人民共和国は、近年の経済成長の鈍化、不動産バルブ、中国不動産大手・中国恒大集団の破産申請など過去20~30年経験してきた勢いにも陰りが出てきたようだ。
しかし、一部の日本の反中論者が言うほど共産党体制の中国は脆弱ではない。体制崩壊へのカウントダウンが始まっているかのような嫌中の論調も見られるが、ちょっとやそっとでは体制崩壊することはないだろう。かといって、安定しているともいえない。中長期的に見れば、共産党中国はかなりの構造的脆弱性を抱えている。
中国の構造的脆弱性と社会活力の減退
人口動態
詳細はこちらの中国の人口動態(中位推計、低位推計)をご覧いただきたいが、中国は日本から遅れること20年で人類最大規模の人口減少社会に突入する。2023年現在が総人口のピークにあたり、これから約80年間で少なくとも6.6億人減少する(悲観シナリオでは9.3億人減)。高齢者は2060年まで右肩上がりで増えていき、他方若年人口(0歳から14歳)は激減していく。
これに伴って高齢化率も上昇していき、現在の約14%(後期高齢化率は4.8%)から2050年には30%(同17%)、2080年には40%(24%)と右肩上がりに上昇していく。老齢年金制度が未発達の中国で、これから溢れ出す高齢者を誰が支えるのだろうか。子ども世代が支えられなくなることは間違いないだろう。
人口の減少と少子高齢化に伴って社会の活力は徐々に減退していくだろう。
政治
毛沢東時代の個人指導体制から1980年代に集団指導体制に移行し、習近平国家主席によって個人独裁体制に回帰しているとされているが、自由な言論と民主化要求は一貫して封殺されている。情報の公開性と透明性を旨とするインターネット社会と逆行する抑圧的な政治体制は、当面の間有効だとしてもいずれ暴発する危険性がある。
民主政は、下から湧き上がってくる要求を政治過程に取り込むことで社会的な混乱や政治主体間の暴力を極限まで抑えることができる。為政者にとって自分が権力の座から降ろされる可能性が常にあり、絶えず国民の顔色をうかがっておかなければならないため民主政は煩わしい制度だろう。しかし、中国にはこの「ガス抜き」ルートがないため、(他の非民主政国家と同じく)暴発するリスクが常にある。
また、民主政には、誤った決定を受け入れられるという利点もある。一般的に、どんな政治的決定も結果的に正しいものになるかどうかはわからない。ある決定が意図せぬ結果を生み、事態が紛糾したり結果オーライとなったりするというのはよくあることである(むしろ意図どおりの結果が生み出されることのほうが珍しいくらいだ)。
独裁体制は間違った決定をしてしまった場合、それを真摯に認め反省するというプロセスが踏めない。認めればたちまち自身が寄って立つ正統性の基盤が崩れ去ってしまうためだ。民主政は間違うことと間違った場合政権交代という形で権力交代が行われることが前提とされているため、政治体制の根幹が揺らぐことはない。
一見、国民の顔色をうかがう必要のない専制体制は統治効率がよいように見えるが、より深い次元で見てみれば体制ごとひっくり返される危険性を孕んでいる。
経済
総人口も生産年齢人口も減少し、高齢者が激増していく社会においてこれまでのように経済活動が活発化するということは考えにくい。社会の中での主な消費主体は子育て世代であり、出生率が低水準で推移していく中国では購買力が増加するとは想像できない。
生産年齢人口も減少していくとともに、過去20~30年での経済成長により賃金が上がった中国で、製造業が拡大していくという予想も難しい。生産面、消費面での活力の減退は避けられないだろう。
また、大気汚染や公害は国民の健康と生命に甚大な被害を与えている。これまでの経済の拡大に伴う環境汚染も体制にとってリスク要因だ。
社会
これらの構造的な欠陥に起因する問題はすでに表出している。各地で民衆暴動が起きている。(が、政府によって隠蔽されている)。これまでまがりなりにも共産党政権が国民の不満の暴発を抑えてこられたのは、経済成長し国民がその果実を享受してきたからだ。しかし、経済成長は低減し、成長の果実を味わえなくなりつつある中、不満が爆発する可能性はある。
しかし中国人にとり悪いことばかりではない。現在の中国社会は、農民・労働者の搾取や都市住民戸籍と農村住民戸籍の差別などの問題を抱えているが、今後の人口推移を考えれば、搾取できる農民や労働者の数も減っていく。人口が減れば、人間一人一人の価値が上がるため、身分制差別も減少していくだろう。
中国では人権という概念が過度に軽視ないしは無視されている。この原因は、これまでは人間の数が異様に多かったためだ。しかし、人口の減少、特に子どもの激減によって若い人の価値はどんどん上がっていく。そもそも人権という価値は、人口密度の希薄なヨーロッパから生まれて来た概念であり、人間の稀少性と連動する。こうして中国でも人権の観念が徐々に育ってくるだろう。
中国共産党体制はずっと続いていく
こうした構造的脆弱性を抱える共産党支配体制下の中国はこれからどうなっていくのだろうか。過去三千年の王朝が幾度となく民衆反乱によって転覆されてきたように、中国共産党も「お決まりのパターン」で崩壊していくのだろうか。
私はそのようには見えない。国力が減衰し、社会が活気を失っていく中でも、共産党体制は生きながらえ続けるだろう。
過去の王朝崩壊の前提には、人口構造がピラミッド型で多産多死の社会があった。それは若者が圧倒的に多く、老人が完全にマイノリティという構造だ。フランス革命、ロシア革命、イラン革命、アラブの春など社会革命と言われるものはすべてピラミドッド型の人口構造の下で起きてきた。そこで革命の推進主体となったのは、10代、20代の若者だ。
だが、今後の中国はこれには当てはまらない。共産党体制を転覆させる主体が見当たらないのだ。端的に言うと若者が相対的に少なすぎる。ここまで高齢化していく社会で体制転覆運動が起きるとすれば、その主体は誰か。高齢者が運動を主導するのか、数少ない10~20歳代が起こすのか、高齢者が子世代・孫世代と共闘するのか。それがイメージできない。
もし仮に体制転覆運動が起きるにしても、高齢化社会で体制転覆運動が起きるのは人類史上初めてで、新時代を画するような事件になるだろう。(社会科学的にはおもしろいテーマだが、現実レベルでは世界に対する影響が破壊的すぎる)。
おそらく現在の日本の若年層がそうであるように(団塊の世代が若かったときとは違って)高齢化社会の中でマイノリティとして生きる中国の若者も社会を変革するという想像力とエネルギーを失い、現状追認型思考になっていくだろう(もうなっているか)。
中国共産党はここから20年間が正念場である。ダウントレンドに入ってくるここから20年をなんとかきり抜ければ、近代史における革命主体たる若者は社会で活力を失い、体力のない高齢者が増える。そして、体制転覆圧力は和らいでいく。
体制転覆しても状況は大して変わらない
仮に共産党体制が崩壊したとしても、中国の人口構造は変わらない。その上、人口規模が大きすぎるため、ドラスティックな体制変化は期待できず後継の体制も共産党の等価物になるだろう。共産党自体が王朝の等価物であるように。
近代の社会革命は、若者が既得権集団を暴力的に追い払い、壮年期の人間の知恵を借りながら新時代に即した制度を作り上げていく過程を辿った。しかし、それは数千万人単位の社会である。人口が億を超える社会で革命が起きたことはないし、仮に起きたとしても物事を急変させるには図体が大きすぎる。
日本のとるべき対応
中国はロシアと違って日本にとって必須の国である。古来より歴史的・文明的な影響を多大に受けてきたという意味でもそうだが、1990年以降も日本との貿易関係においてもなくてはならない。世界の多くの国で中国は貿易相手国のナンバー1か2であるため、すべての国は中国の動向に影響を受ける。
体制が崩壊しようものなら、世界経済とともに日本も甚大な負の影響を受けてしまう。体制崩壊の可能性は限りなく少ないと私は考えているが、それでも上記のような構造的脆弱性を抱えており、中国社会は活力を失っていくため、日本はそれに備えておく必要がある。
日本企業は、人口規模の大きさ=市場の巨大さに目を奪われてこれまでのようにどっぷり中国に浸かりきったままでいるのはリスクが高い。中国のダウントレンドを見越して、徐々に活動をダウンサイジングしていく準備をしておく必要があるだろう。