G-5YSV44CS49 【将来予想】2040年ごろイランは民主化する|歩く歴史家 BLOG

【将来予想】2040年ごろイランは民主化する

歩く歴史家

イランは意外に普通の国

1979年のイラン革命とアメリカ大使館占拠事件後、アメリカとの関係が悪化し、2002年にはブッシュ大統領によって北朝鮮・イラクとともに「悪の枢軸」扱いされたイラン。2000年代からは核開発疑惑が取り沙汰されるようになり、国連安保理によって対イランの経済制裁が発動されるようになった。

国内に関しては、宗教的リーダーが最高指導者を務める神権政治体制を敷いており、人権弾圧が著しく、女性の権利が抑圧されているとされる。たしかにそれが実態なのだろうが、アメリカのメディアを通じて見ると極悪に見えるこの国は、そんなにヤバい国なのだろうか。

欧米メディアとは別の確度から見てみると、イランは意外に普通の国である。経済制裁を受けなければ普通に発展し、将来的には中東から先進国入りできる可能性を秘めた国であることがわかる。

イランの概況

まず、基礎データを確認をしておこう。

・人口:約8,900万人

・国土面積:1,648万平方km(日本の約4.4倍)

・民族:ペルシャ人、トルコ人、クルド人、アラブ人など

・GDP(名目):約3,700億ドル(世界42位)(世銀、2022年)

・一人あたりGDP(名目):約4,250ドル(世界137位)(世銀、2022年)

・識字率(15歳以上):約89%(UNESCO、2022年)

イランの科学技術力は経済制裁に翻弄されつつも成長しているようだ。産業構造としては、天然資源と農業を基礎とするいわゆるモノカルチャー型だが、自動車を生産したり、科学論文を量産したりと奮闘している。イラン・ホドロ社(ICKO)とサーイパーという自動車メーカーがあり、私もセネガル・ダカールでホドロ社製セダンのタクシーに乗ったが、わりと快適で普通の車だった。

イランの人口動態

イランの人口動態の型は、トルコ、タイ、ベトナムなどの中進国に近い。今後総人口が右肩上がりに増えていくエジプト、隣国イラク、サウジアラビアなどの中東アラブ諸国とは異なる(こちらを参照)。なお(同じ悪の枢軸)北朝鮮とは似ている。

現在のイランの出生率は2000年代から人口置き換え水準の2を下回っている(フランスと同水準)。今後も総人口は微増していくが、2050年頃にピークに達することが見えている。イランは成熟国になりかけの国だ。

人口動態としては、さながら40年ほど遅れてきた日本のようだ。1980年代に10年かけて団塊の世代が生まれ、2000年代後半から15年ほどかけて団塊ジュニアが生まれるといった具合だ。生産年齢人口(15-64歳)は、2040年ごろにピークに達する(日本のピークは1990年代後半)。

若者増加期に起きたイラン革命

グラフ1,2をご覧いただくと、1979年のイラン革命は若者増加プロセスにおいて起きた現象ということがわかる。革命に参加した中心層が20歳代(1950年~1959年生まれ)とすると、1979年というのは若年層が急激に増えていく過程の終盤である。イラン革命は、現在のアフリカが経験しているようなユースバルジの一環としての出来事だったのだろう。

興味深いのは、イラン革命が起きた後の10年間で出生数が急増していることだ。この現象は、おそらくイラン・イラク戦争(1980-88年)の影響によるものと思われ、現在のイスラエルがそうであるように、戦争状態にある国家では出生圧力が働くのだろう。戦争が終わってからは驚くべきスピードで出生数が減っている。

イランは放っておけば民主化する

イラン革命時とイラン・イラク戦争期に20代だった若者は、現在50~60代に突入して社会の意思決定層になっている。80年代のベビーブーム層(イランの団塊の世代)は現在30代半ば~40代半ばで、彼らの子ども(団塊ジュニア)はこれから成人期に突入する。

ベビーブーム世代が社会の決定権を握る50代に突入し、そのジュニア層が成人を迎えるのが2040年代である。このあたりでイランは民主化すると私は予想している。

国連の「World Population Prospects 2022(中位推計)」を基に筆者が作成

政権レベルではアメリカと対立しているものの、実はアメリカ文化が大好きなこの国の若者たち。彼らが主体となって民主化を進めていくだろう。ロシアの将来予想でも書いたが、イラン人も神権政治かiPhoneかの二択を迫られれば、後者を選ぶにちがいない。イラン革命世代の頭が固く、人口構成上少数はであるおっさんたちは時間の経過とともに後景に退いていくだろう。

古代ペルシャから地域大国であるこの国は、近隣のアラブ諸国に比べてはるかに基盤が安定している。言語的にもペルシャ語はヨーロッパ言語と同根で、私の経験からもイラン人はフランス語を早く習得する。ヨーロッパに近いこの国は、むやみに刺激する必要はない。放っておけば勝手に民主化するだろう。その上で地域秩序の安定化に貢献してもらうのがよいはずだ。

アメリカとの過去の因縁があるかもしればいが、それも40年以上前のことである。同じくアメリカと衝突したベトナムが現在親米国家であることを考えれば、イランも親米国家になれないわけではない。両国の一般人は特に対立していないどころか、イラン人はアメリカ文化が好きなのだから。政権がいがみ合う両国を仲介する役割を日本が担う余地はあるだろう。

プロフィール
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歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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