G-5YSV44CS49 ワーキングホリデーの戦略的活用法 -ワーホリに安易に飛びつくのはやめたほうがいい-|歩く歴史家 BLOG
ライフ

ワーキングホリデーの戦略的活用法 -ワーホリに安易に飛びつくのはやめたほうがいい-

歩く歴史家

ワーホリ制度は中途半端。その実態は「出稼ぎ」

日本の賃金が伸び悩み続ける中で、若者が海外で就業体験するワーキングホリデー(以下、ワーホリ)に殺到しているようだ。賃金の低い国から高い国へと労働力が移住するのは普遍的な現象だが、ワーホリで海外就業を目指す日本の若者は移民なのか。そもそもワーキングホリデーとは何なのか。もし読者のあなたがワーホリに出ようと考えているなら、どうすればいいかをここでは考えていきたい。

まず、外務省のHPによると、ワーキングホリデー制度の趣旨はこのとおりだ。

ワーキングホリデー制度とは、二国・地域間の取決め等に基づき、各々の国・地域が、相手国・地域の青少年に対し、休暇目的の入国及び滞在期間中における旅行・滞在資金を補うための付随的な就労を認める制度です。各々の国・地域が、その文化や一般的な生活様式を理解する機会を相手国・地域の青少年に対して提供し、二国・地域間の相互理解を深めることを趣旨とします

要約すれば、主目的はその名のとおり「休暇」、それに付随して「就労」が認められるというのがこの制度の趣旨だ。そして、日本は現在30の国・地域との間でワーホリ制度を導入している。

日本の青年の中でワーホリの対象国として最も人気が高いのがオーストラリアだ(この国の場合、対象年齢は18歳~30歳まで)。日本円の対オーストラリアドルのレートを確認してみると、2020年4月以降の直近約5年間、一方的に円安が進んでおり、今やオーストラリアの最低賃金は日本の最低賃金の2倍に達するという(つまり、日本は半分ということだ)。さらには物価も高く、聞くところによると外食しようとすれば一瞬で1万円は飛んでいくため、日本的な感覚からすれば簡単に外食はできないようだ。

日本の物価は異常に低く、同じ生活水準を維持するならアフリカですら日本の生活費を大きく上回るため、ワーホリ導入国で日本の若者に人気のある国(カナダ、ニュージーランド、イギリスなどの英語圏)でも多かれ少なかれオーストラリアと同じような傾向にあるだろう。

その状況を考えると、ワーホリを制度趣旨のとおり「ホリデー」として活用できるほどの「有閑階級」はどれほどいるのだろうか。そのような階級の子息であれば、通常、留学用のビザを取るだろうし、労働には(ほぼ)従事しないだろう。留学できる経済的余裕があるにもかかわらずわざわざワーホリを利用するとしたら、その人はかなり「ヤバいやつ」だ。(資金はあるのに勉強はしたくない、海外でぼーっと1年間遊んで暮らしたいという意味で)。

ホリデーしながら働くというのは非常に中途半端な制度で、実際に応募しているのは、社会生活から逃避したい「自分探し」系の若者だろう。その彼らは「働きながら英語を勉強したい」というぼやっとした目的でオーストラリアなどに行き、実際には最低賃金かそれ以下で働く。このようにワーホリビザは短期の「出稼ぎビザ」として機能しているというのが実態だろう。(このような事態はアフリカの若者を見ているようでなんとも嘆かわしい気持ちになる)。

「働きながら英語を勉強したい」という考えは甘い

ワーホリ希望者の中に「働きながら英語を学びたい」と考えている人が少なくないようだが、はっきり言っておこう。この発想は甘い。どんな国もそんなあなたを受け入れてくれるほど優しくはない。もしあなたがこのような考えでワーホリに行こうとしているなら渡航を考え直することをお勧めする。

渡航先でディセントワーク(ILOの定義によれば、「働きがいのある人間らしい仕事」)のポストあれば、そこには英語に堪能な日本人以外の外国人(中には英語ネイティブも含まれる)が応募し、あなたはその人たちとの競争になり、英語を話せないあなたは負ける公算が高い。

すると残るは、よくて最低賃金のやりがいのない労働、往々にしてありそうなのが最低賃金以下の不法移民相当の仕事(言葉を必要としない仕事)だろう。最悪の場合、人身売買・売春などの違法な事態に巻き込まれる危険性もある。

この後述べるように、ワーホリに行くとしたらこのような曖昧な目的ではなく、具体的な目的を持って戦略的に制度を活用するのがいい。

外国で職に就くのはきわめて難しい。外国語とスキルが必須。

まず、単身で外国に乗り込んでいって職に就くというのはかなり難しいということを認識する必要がある。最低でも以下の条件を満たしていなければ、ディセントワークを得るのは厳しいだろう。

その国の言葉をある程度は使える

これが満たされていなければ、たとえあなたが医師の資格を持っていたとしてもまともに働くことはできないだろう。飛び抜けた高度スキルがあれば通訳をつけるという選択肢もあるが(例えば大谷翔平など)、これ例外中の例外であり、ましてやそのような人はワーホリ制度など使わない。

ワーホリを利用して働きたいなら、渡航する前から同僚や客ときちんと意思疎通できるレベルの言語が使えなければならない(もちろんホリデーのために行くなら特に必要ない)。それなしでは仕事にならない。

一人前のスキルがある

あなたが外国で職に就こうと考えているということは、日本よりも高賃金を求めてのことだろう。そうだとすれば、その社会が求めるスキルを身につけていることが必須だ。

どのような技能が必要とされるかは国によって多少違うだろう、日本社会で一人前に給料を稼げるレベルはほしいところだ。新規学卒者が行っても職業スキルがないためおそらくライバルに負けるだろう。ワーホリ制度を有効活用したいなら、少なくとも数年間何らかの実践的スキルを身につけると同時に、外国語も勉強して渡航することをお勧めする。

一点明るい話題を挙げれば、以前、PIAACの調査結果を分析したが、日本人の優秀さは世界トップクラスであり、勤勉性や時間の正確性は指折りなので、この2つが満たされていればライバルに勝てるどころか、かなり重宝されるだろう。

このように外国で働くというのは難しいことだが、もし海外で働きたいという将来の希望があるなら、ワーホリのような中途半端な制度は活用せず、日本企業から赴任することを目指したほうがいい。ワーホリに充てるはずだった時間と資金を自分の能力開発に日本で充て、その能力をもって日本の企業に入り、そこから海外赴任するというのがリスクの少ない手段だ。これも簡単なことではないが、幸いなことに日本には少子化と人手不足という若年層にとっては有利な環境がある。

ワーホリの戦略的活用法

ワーホリは中途半端な制度なので、私はその利用をお勧めしないが、どうしてもワーホリに行きたいなら自分で利用目的を定めて戦略的に立ち振る舞うのがいいだろう。その目的と戦略は次のとおりだ。

出稼ぎと割り切る

日本での給料よりも高ければ仕事にやりがいがなくてもいい、不法移民相当の仕事でもいいと割り切るという考え方はありうる。高い給料が欲しいから働くという純粋な「出稼ぎ」型の戦略だ。ワーホリは滞在期間が最長1年(延長不可、もしくは短期間の延長のみ)の国が多く、将来的な展望も見通せないためこの戦略はあまりお勧めできないが、仮にこの目的を設定するなら、高賃金国に行くのがいい。

最初の狙い目は、ルクセンブルクだろう。次はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランド、アイルランドあたりか。

ただ、仕事にありつけないリスクと滞在期間が限られているという問題があるため、現実的には滞在期間を3年まで延長できるオーストラリアが第一の選択肢となるだろう(現に多くの人はそうしているし、そのことがワーホリはホリデーでなく出稼ぎという証左になっている。3年もホリデーに出る人はいない)。

休暇と割り切る

第2に、本来の制度趣旨どおり100%休暇として使うという戦略もありうる(しかし、高齢者ならいざ知らず、現実的にこれをとれる18歳~30歳の人はほぼいないだろう)。

ただ、この場合のワーホリのメリットはあまりない。滞在期間が通常のビザ無し渡航(90日)より長いということくらいか。だが、1か国に1年間も余暇で過ごすというのは普通考えにくいので、ビザの有効期限が1年あってもあまり意味がない。

これは余暇の話で、楽しむこと自体が目的なので、次に述べるような成果を上げて後に活かそうという発想とは相容れない。個人の自由に関することなので、私を含む他人がそれをやったほうがいい/やめたほうがいいという話ではない。

将来目標からバックキャスティングして滞在目的を定め、修行期間とする

この第3の戦略がもっとも制度を有効活用でき、時間を意義あるものにすることができるものだ。ワーホリに行くようなあなたは年齢が若いため、単なる出稼ぎ目的で意義を感じられない仕事をするのではもったいない。やはり行くからには将来役に立てるための何らかの成果はほしいところだ。 そこで、自分の将来やりたいことから逆算して渡航目的をしっかりと定め、ワーホリを修行期間として位置づけることを提唱したい。その発想の手順は次のとおりだ。

ステップ1

まずは、そもそも自分が何に興味があるのか、何が得意なのかを明確にし、将来何をしたいのかを決める。そもそもワーホリを検討しているということは、特に将来の目標があるわけではないのだろう。そこで「働きながら英語を勉強する」という自分探し系の発想に陥りがちだが、これはやめたほうがいい。

暫定的でもいいので、きちんと将来の目標を立てることが最初のステップだ。この準備段階をすっ飛ばすと、現地での生活立ち上げと生存のために貴重な貯金を失うことになるか、ただの出稼ぎで終わってしまうだろう。

何も目標が思い浮かばないなら、ワーホリはやめたほうがいい。ワーホリは渡航直後の金銭的持ち出しが多く、経済的な損失が大きいためだ。目標はないがなんとなく海外生活をしたいというなら、青年海外協力隊を目指すほうがいいだろう。こちらのほうが金銭的リスクが圧倒的に少ない上に、何らかの活動に従事するため「何もすることなく貯金は底をつき帰国せざるをえなくなった」という事態に陥らないからだ。

ステップ2

次に、ワーホリの経験が設定した将来像に合致するのかを検証し、それに合った国と種を選ぶ。例えば、将来英語を使える教師・看護師などになりたいのに、農場での収穫作業しか仕事がないとなれば、時間の浪費だ。合致しなければ、時間とお金を無駄にするだけなのでやめたほうがいいだろう。

ステップ3

渡航前に職の当たりをつけておく。渡航後に職探しを始め、それで1年を終えてしまっては元も子もない。職探し以外何もすることがなく、貯金がどんどんすり減ってくことに対して誰しも焦りを感じざるをえないだろうから、職の目星がつかないなら思い切って断念したほうがいい。

ステップ4

事前に貯金しておく。生活の立ち上げから日常的な食費など給料が得られるまでの日数は自分で負担しなければならない。渡航先の国は物価が高く、現在は円安で円の価値が目減りしているため、かなりの余裕資金を蓄えておく必要があるだろう。

ステップ5

渡航先での生活と仕事に慣れる。ここからが本番で、職に就けたとしても現実的に徒弟修行のようなものからのスタートになり、周囲から実力が認められたとしても残り時間が少なくなった頃になるだろう。慣れない職場環境の中での苦労も多いはずだ。

また、給料が高くても生活費も高いため、厳しい生活を強いられることになるだろう。しかし、将来の目標に資する修行期間として位置づければ自分の中で納得感が得られるだろう。むしろ厳しい環境に耐えるためにあらかじめ将来の目標を設定しようとするのがこの戦略のキーポイントだ。

以上が私の考える最も妥当なワーホリの活用方法だが、渡航前の心理的・金銭的・職業的準備で成否は大きく左右される。さらにこれを達成するのはそう簡単なものではないだろう。これができるなら日本でも渡航先と同じぐらいの給料かそれ以上はもらえそうな気がする。しかも、生活水準を渡航先よりも高く保った上で。こうしてまた、ワーホリは中途半端な制度だという結論にたどり着く。

駐在員の配偶者の就労

海外駐在員の配偶者が家族として帯同する場合、配偶者ビザでは就労できないケースがある。そのような人がワーホリビザを取得して働き、家計に貢献するという使い方がある。しかし、これは多くの人にとっては関係ないので、詳細は割愛する。

以上がワーホリ制度の活用戦略だ。繰り返しになるが、ワーホリは中途半端な制度で多くの人にはお勧めできない。ワーホリを検討する場合には、途中脱落者や生活困窮者になる人がかなりの数いるということを知っておいたほうがいい。だが、将来ビジョンが描けている人にとってはやり方によってはうまくはまることもあるだろう。

プロフィール
歩く歴史家
歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
記事URLをコピーしました