世界の人口増加国家③-2.5倍~3倍に増える国-
2.5倍になる国
前稿ではこれから2100年までに人口が1.5倍~2倍に増加する国を取り上げた。今回は、今後75年間で総人口が約2.5倍~3倍になる国を見ていきたい。
まずは、2.5倍になる国は次のとおりだ。
イラク、パレスチナ、ナイジェリア、ブルキナファソ、ギニア、エチオピア
イラクとパレスチナは中東・北アフリカ地域で最も人口増加率が高い国だ。他の主要国は総人口のピークが今世紀後半に到達することが予想されるが、この2か国は右肩上がりの上昇を続ける。
そして、このあたりからサブサハラ・アフリカの国が続々と登場してくる。アフリカ最大の人口を擁し、経済大国であるナイジェリアを筆頭にその他の国々が続いていく。現在のサヘル地域は、「政情不安定ベルト」が横断しているが、今後も政変が続くことが予想される。
3倍になる国
続いて、2100年にかけて3倍になるのは次の国だ。
コートジボワール、コンゴ共和国、カメルーン、スーダン
これ以降はサブサハラ・アフリカ諸国しか登場しなくなる。次回述べることとなるが、わずかアフリカには75年間で2.5倍から6倍にまで増える国が多数あり、凄まじい社会変動を経験することとなるだろう。見方によっては、世界の経済成長セクターともみなすことができ、それゆえに資本主義の「最後のフロンティア」と目されるわけだが、私は、ことはそう簡単に運ばないだろうと見ている。
サブサハラ・アフリカ諸国の人口動態は似通っており、程度の差はあれどこにでも「ユースバルジ」が見られる。詳しくはこちらを参照いただきたいのだが、アフリカ諸国が取り組むべき最優先課題は若年者の雇用問題だ。為政者は自国の若者を恐れており、彼らの扱いに苦慮している。
各論
イラク
過去60年で出生率は減少の一途を辿ってはいるものの、依然として4弱ある。注目したい点は、2003年のイラク戦争が発生しサダム・フセイン政権が倒れてから、出生率が一時的に上昇したことだ。やはり、戦争というのは人間の出生行動に影響を与えるという一例だ。
現在は、政情と治安は徐々に回復局面にあるようだが、若年人口は右肩上がりに上昇し続けており、いつ「第二のアラブの春」が起きてもおかしくない。
隣国のイランと比較しても、異なる人口動態の様相を呈している。こちらでも述べたが、イランはこれから成熟国家入りしていく一方で、イラクはまだまだ未成熟国家である。両国は中東のイスラム国で対立関係にあるライバル国とみなされがちであるが、宗派や民族アイデンティティは当然のことながら、人口動態面においても根本的に異なる国である。極論してしまえば、イランは西洋先進国型に突入しようとしているが、イラクは中東アラブの国なのだ。
パレスチナ
昨年10月に始まったイスラエルとの戦争前には、出生率は減少傾向を見せていた。イスラエルと比較すると、出生率は0.5ポイントほど高い程度で、人口増加率も極端な差はなかった。今後10年間で上昇局面に映るかもしれない。
昨年10月に突如引き起こされたハマスによるイスラエル攻撃をパレスチナの内部から見てみると、私の目には典型的な「ユースバルジ」が引き起こした現象に映る。パレスチナは、こちらのエントリーで述べた深層要因が明らかに不安定な状態を示している。ここ数十年間若年人口が急激に増えているのだ。それに加え、増加する人口を収容する土地面積が極めて狭いことや、国際政治的に孤立しており社会経済的な状況が劣悪であることなどの要因が加わり、ハマスが国民の一定数から指示されていたとしてもおかしくはない。
ナイジェリア
ナイジェリアはアフリカ最大の人口大国であり、総人口はすでに2.2億人を超えている。連邦制を採用する民主制国家で、昨年の大統領選挙は大きな混乱なく乗り切った。しかし、2100年の予想人口は約5.5億人と凄まじい勢いと規模感で拡大していくこの国は(も)「人口動態的爆弾」を抱えている。
出生率は現在約5.5で、1970年代後半の7弱をピークに以降は減少傾向にはあるものの下がり方がかなり緩慢である。若年人口の増加も右肩上がりの局面にある。見方によっては、人口増加により経済と社会が活気づくともいえるだろうが、増加のスピードが早すぎるため危険性のほうが高いだろう。
国土の北東部ではボコ・ハラムというテロリスト集団が活動しており、中央政府の統制が効いていない。国土が広く、多様な民族を抱えており、1960年代末にはビアフラ戦争が発生したこともあるため、いつ問題が再発してもおかしくない。この国が政治・社会変動に見舞われるような事態に陥れば、規模が大きいだけに周辺地域に対する影響は甚大なものとなるだろう。
私は、世界の中で最も社会変動が起きそうな国はパキスタンとナイジェリアであると見ている。
ブルキナファソ、ギニア、エチオピア
アフリカの「政情不安定ベルト」を構成するこの3か国も人口爆発中だ。出生率が4台と極めて高く、1980年代のピーク時7から減少傾向にあるものの、目下、若年人口が激増している。その増加は2050年代まで続くため、少なくとのあと四半世紀は不安定な状態が続くだろう。
ブルキナファソに関しては、現在クーデタ暫定政権が続いており、反フランス感情が激昂している状況にあるが、国内の不満を旧宗主国に対して向けていることとなる。ただでさえ内陸国で孤立しがちな中、自ら西洋諸国から距離を置き始めていおり、国内外の政治状況改善の糸口がなかなか見いだせない。
一昔前にテレビタレントとして有名だったオスマン・サンコン(元外交官)の出身国ギニアについては、政治状況は少しましで、露骨な反フランス政策からは距離を置いている。しかし、国内の若年層増加による失業問題は今後も構造的な問題であり続けるため、こちらも不安定な状態は続くだろう。
すでに1億2,600万の人口を擁し、日本より総人口が多いエチオピアは、2100年に人口3億2千万人を超えると国連により予想されている。ユースバルジの真最中で、2020年には北部のティグライ州では内戦が発生した。エジプトとの潜在的な対立関係にあり、国内の若年人口増加による社会不安と連動して地域紛争に発展しかねない。
コートジボワール
960年にフランスから独立して以降、順調に経済成長を遂げていたこの国は、2002年、2010年に2度内戦を経験している。現在の政情は安定しているものの、上記のアフリカ諸国と同じく極めて出生率が高く、若年人口が激増している最中にある。
構造的な人口動態要因に、潜在的にくすぶる国内の南北民族問題という社会要因が重なりあって、政治・経済・社会が再度不安定化してもおかしくない。