中国のほうが日本より高齢化にうまく対応するだろう
人口が激減する東アジア
現在、日本で少子化と高齢化が進み、人口が減少しているという事実を知らない人はいないだろう。戦争や疫病、飢饉などの厄災が発生していないにもかかわらず、世界に先駆けて総人口が減少し始めた日本は、人口問題のトップランナーといえる。
現在の東アジアは世界の中で最も出生率が低い地域であるがゆえに、今後社会の高齢化「率」が著しく上がっていく。日本の場合、すでに人口の約3割が65歳以上で、国立社会保障・人口問題研究所により今後は4割に達すると予想されている。
一方、中国もこれから凄まじい勢いで高齢者が増加していき、現在の高齢化率約14%が急上昇していく。出生率を中位に見積もった国連の推計によれば、2060年に高齢者人口が4.3億人でピークに達し、2090年には高齢化率が40%を超える。より現実味を帯びている低位推計ではなんと2090年57%に達する予想だ。
韓国は現在約20%弱の高齢化率が2080年には47%に達する。中国・韓国とも日本に遅れること30~40年で日本を超える高齢社会に突入しそうなのである。
こうした中、日本では「シルバーデモクラシー」により政治が完全に高齢者寄りになり、社会経済が停滞する一因となっている。(シルバーデモクラシーの解決法についてはこちら)。これから日本を量的にも質的にもはるかに凌ぐ勢いで高齢化していく中国はいったい高齢化問題を解決できるのだろうか。できるとすればどのような方法によってか。
少なすぎる若年層
上のグラフを見ていただければすぐにわかるが、今後の中国では、過去40~50年にわたる少子化と強制的な出生抑制政策(一人っ子政策)により少なくなりすぎた若年世代が高齢者を支えることはもはや不可能だろう。
親の面倒は子どもが見るべきだという社会規範が強く残っているようだが、あまりにも人口バランスを失した中国ではこのような悠長なことは言っていられない。現実によりこの規範は葬り去られるだろう。結婚した一人っ子カップルは、4人の親の面倒を見つつ、お金のかかる自分の子どもの手当をしなければならない状況になっているが、現実的に親の面倒を見ている余裕はないだろう。
非民主政国家は縮小局面で真価を発揮する
私は以前こちらでデモクラシーを定義したとき、中国を非民主主義的非民主政国家に分類した。民主主義という価値を持たず、かつ形式的な制度(代表的なものは選挙)すら持たない国家をここに含めている。(なお、ロシアは非民主主義的民主政国家なので、中国とは別のカテゴリーに属する)。そして、ここでは非民主主義的非民主政国家を専制国家と呼んでおく。
専制国家の代表的な特徴には、
①選挙を気にしなくていい
②全体のため、政権政党(多くは独裁政党)のためには部分を切り捨てる
③人権に配慮しない
が挙げられるだろう。
中国はデモクラシーではないゆえに、シルバーデモクラシーの問題は発生しない。民主制は国民の不満の「ガス抜き装置」であるため、仮にその国が若く、民主制を欠いていれば、国民は暴動、革命、クーデタなどの手段によって政権を打倒しようとする。(例えば現在のアフリカ。具体的事例はマリ、ブルキナファソ、ニジェール、ガボン、セネガルなど)。民主政は若い社会に強い政治形態といえる。
今の中国社会は若さを失いつつあり、今後は急激に老化していく。そのような中で、大規模な社会変動が起こることは想定しにくい(私の中国に関する将来の見通しはこちら)。そして中国は上記の特徴を持つがゆえに、増えゆく高齢者を切り捨てることにより今後の高齢化してゆく局面にそれなりにうまく対応していくだろうと私は予想する。
切り捨てられる高齢者は主に70歳代以降の層だろうから、若者と違って暴動を起こすこともないだろう。というより、中国政府は、暴動を起こす危険性のない高齢者(75歳以降がメインだろう。特に弱った要介護者など)から切り捨てていくだろう。こうして非民主政国家は、社会が縮小局面に入ったところで「安全に」真価を発揮する。
なお、断っておくと、その政策的対応の倫理的是非は本当では問わない。あくまでも、どう「なりそうか」を私個人が予想するものであり、倫理的にどう「すべきか」は全く別問題である。
また、ロシアと民主政に関して、ロシアは、年金改革問題が政権支持率を左右するほどの重要問題あるが、これは同国が民主制を採用しているためである。この意味でロシアと中国は異なる。私の分類では、ロシアは「非民主主義的民主政国家」に属する。
民主政と非民主政の功罪が明らかになる
現在の中国政府は自国の高齢化問題を重々承知しているため、急ピッチで社会保障制度を充実させようと取り組んでいるようだが、いかんせん年金を支払う人口が少なすぎる。今後は2億人を超える要介護人口が生まれるとの予想があり、独居老人も年々増加している。
今後、手に負えなくなった高齢者は国が整備した「介護難民収容所」に集団で送られることになるのではないだろうか。気の毒だが、中国の高齢者にとっては過酷な老後生活になるだろう。
こうして身軽になった(正確には負担を背負わなくて済む)貴重な若者層は、これまでどおり社会経済活動に専念できる。
これから、世界のすべての国が高齢化を経験する。一部の国を除いて少子化も同時に進行する。こうした世界のメガトレンドの中で、日本型のシルバーデモクラシーと中国型の「社会的トリアージ」アプローチの功罪が徐々に明らかになってくるだろう。
政治運営、経済パフォーマンス、若年層・壮年層・高齢者層の幸福度などあらゆる面で両国の違いが浮き彫りになってくるはずだ。中国の高齢者の幸福度が下がるのは当然だろうが、マクロ経済と個々の企業のパフォーマンスや若年層の満足度はおそらく中国のほうが高くなるだろうと(現在の日本に照らして)予想しておく。この意味において、中国は日本よりうまく高齢化に対応するだろう。