G-5YSV44CS49 私の徴兵制論(2/2)-徴兵制度私案:徴兵対象者、任務、予備役-|歩く歴史家 BLOG
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私の徴兵制論(2/2)-徴兵制度私案:徴兵対象者、任務、予備役-

歩く歴史家

徴兵制度私案

前稿では、私の考える徴兵制の目的、徴兵制にまつわる誤解を紹介し、徴兵制不要論に対する批判を行った。それを踏まえて、今回は具体的な制度に関する私案を展開していく。ただ、ここまで来ると原理論から離れ、軍務に関する専門的な知識が必要になる。それは私の能力を超えるため、本稿は制度の簡単なスケッチに留まる。

なお、その前提として、憲法の改正(9条削除、戦力統制規範の導入)が必須であることを事前に再確認しておく。

徴兵制の導入目的

前稿で考察した「徴兵制の目的」のとおり。

参照:私の徴兵制論(1/2)-目的、徴兵制の誤解、徴兵制不要論批判-

徴兵対象者

対象者は18歳から70歳までのすべての国民

現在の日本は国民皆兵制ではなく徴兵制も採用していないため、志願兵(自衛官)と旧軍経験者、外国軍の外国人部隊経験者を除いて軍務経験者はいない。前項で、国民は市民的義務の履行の観点から無差別に徴兵されなければならないということを確認したが、この原理に照らせば、すべての国民は一度は兵役に就かなければならない。

社会経済的影響や身体的・肉体的・軍事的観点から何歳から何歳までを徴兵するのが合理的かという点に関しては種々の議論があるだろう。ここでは暫定的に、18歳から70歳までとしておこう。下限は成人年齢だが、上限を70歳としたのは日本人の健康寿命が概ねそれくらいだがから。75歳以降は認知症のリスクが高まるたるため、70歳くらいが妥当な上限だろう。

徴兵制導入直後の第一段階は経過措置の段階で、この段階では18歳から70歳までのすべての国民が兵役対象となる。当然女性も含む。そして、兵役を完了した者は予備役に編入され、70歳で退役となる。

第二段階として、第一段階ですべての国民の兵役が完了したら、それ以降に徴兵される新兵の年齢は下の方に絞られる。ここでは仮に18歳から39歳としておこう。学業、職業、育児、介護などそれぞれの事情があるため、このように年齢幅を広めに設けているが、すべての国民はその期間内に兵役に服さなければならない。兵役を終えた人は、70歳まで予備役に編入される(第一段階の人たちと同じ)。

ただし、スポーツ選手や文化・芸能活動家などその年齢層で徴兵されると都合の悪い者は、例外的に猶予される(当然、免除ではない)。猶予に関するルールは別途法律で定める。

良心的兵役拒否権の保障

兵役は国民の義務であるため、納税が拒否できないように兵役も拒否できない。ただし、絶対的平和主義者(自分は殺されたとしても殺さない)などの良心を持った者に対しては一定の配慮を行い、良心的兵役拒否権を認める。

その際、絶対平和主義者に扮した徴兵逃れを許さないため、その権利を行使する者に対しては代替役務が課される。その役務は、自分は死ぬリスクは負うが相手を殺さなくていいという条件の任務で、通常の任務に就くのと同等かそれ以上に危険で重いものでなければならない。例えば、非武装看護、原発の守備、爆発物や化学物質の除去など。

兵役期間

徴兵期間に関しては、軍隊組織における新兵訓練にどれほどの時間を割くのが最も合理的かを勘案して決めるべきことなので、素人の私が考えるには限界があるが、差し当たりは他国の事例を見ながら、そこでの標準を採用して2年としておこう。一般社会での生活もあることから、これくらいが妥当だろう。

兵役期間中の配属と任務

配属

アメリカ合衆国の州兵に倣い、徴兵された者は都道府県に設置される郷土防衛隊に配属される。

任務

①平時においては、都道府県知事の指揮下にある郷土防衛隊で災害救助や治安維持にあたる。

日本では自衛隊が災害派遣されており、国民にはそれが当たり前という認識があるが、本来正規軍の任務は外国軍と戦うことであり、災害救助は含まれない。日本では各都道府県知事は、災害対応のための実働部隊を持たないため防衛大臣に自衛隊の出動要請をしているが、本来なら地方自治体が災害対応にあたり、正規軍は戦闘とその訓練に専念するのが好ましい。

②戦時においては、国軍に編入され、軍の最高指揮権者である内閣総理大臣の指揮下に入る。そこで国防任務に就く。

戦争が発生し、仮に敵国軍が日本の領土内に着上陸した際は、敵と直接戦う職業軍人の支援に回る。ロジスティック支援、住民非難、人命救助、インフラの復旧など。これには災害救助の経験をそのまま活かすことができる。さらに、必要に応じて敵と交戦する。

日本は災害多発地域であり、戦争はそう頻繁に起こるものではないことを考えると、実際には、兵役に就いた人は災害救助とそれに対応するための日々の訓練が主な任務になるだろう。

研修・訓練

  • ・軍人として身につけておくべき知識を得るために研修を受講する。憲法、国際法など。
  • ・災害救助に必要な技能を習得するための訓練を行う。
  • ・戦時体制下では戦闘任務に就くため、それに必要な基礎訓練を行う。基礎的な体力づくり、射撃訓練など。

予備役

  • ・兵役終了後は、70歳まで予備役に編入される。
  • ・予備役中は、定期的に訓練を受ける。
  • ・災害発生時には緊急動員される。
  • ・戦時にも動員され、職業軍人を後方支援する。必要に応じて前線にも展開する。

徴兵制の副産物

以上が徴兵制度に関する私案だ。ここからは本論から多少脱線するが、徴兵制を導入することにより発生する副次的な結果について考えてみたい。

まずは正の側面として、国民が軍務を経験することにより国防をリアルな問題と捉えるようになるだろう。これは裁判員制度でも同じような結果が出ている。それまでは自分に関係ないと認識していたことが、自分ごととして知覚されるようになるのはよいことだ。

その結果、徴兵制を廃止しようという意見が出ることも予想されるが、その場合は同時に国防をどうするのかもセットで考えざるを得ないため、無関心による徴兵制の不在という現状に比べて主体的な意思が入っている分はるかにましだろう。さらには、私の憲法9条論でも述べたが、徴兵制導入段階を経れば、住民投票導入に向けた改憲ステップに進めやすくなる。

また、軍隊内であらゆる社会階層が混交することによる正と負の現象が起きてくるはずだ。私案では徴兵制度導入後の第一段階では70歳までのすべての国民が兵役に就くため、それまでの一般社会で出会うことのなかった社会層が軍隊内で強制的に出会うことになる。

それによって、正の側面として、世代間や性別間の断絶が解消されたり、相互理解が深まる可能性がある。負の側面としては、軍隊は閉鎖的な環境であるため、いじめや暴力、性被害などが発生したり、社会階層間の差別が助長されることが予想される。

それによって徴兵制度に関する賛否両論が巻き起こるだろうが、徴兵制はその目的に照らし必須であるため、制度を維持しつつ負の側面を解消するための改革を実施していくことが必要になってくるだろう。

プロフィール
歩く歴史家
歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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