G-5YSV44CS49 合理的に行動し、ライバルとAIに勝つ!     -PIAAC第2回調査の結果(3/3)-|歩く歴史家 BLOG
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合理的に行動し、ライバルとAIに勝つ!     -PIAAC第2回調査の結果(3/3)-

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世界で一番AIに負けにくい国、日本

2024年12月10日に経済協力開発機構(OECD)が国際成人力調査(PIAAC:ピアック)の結果を公表したことを受けて、前々回(第1回)の稿では、日本人は世界でもっとも優秀であり、日本の公教育がうまく機能していることに触れた。高得点を取るだけでも世界的には立派で誇るべきこだ。前回(第2回)の稿では、日本人の能力が加齢とともに右肩下がりになっていくのは、雇用システムが悪いからということを指摘した。

今回は、PIAACの調査結果を受けて、私たち一人一人はどのように行動するのが合理的かを考えていきたい。

現在の世界においてもっとも熱いテーマはAIだろう。AIが人間に取って代わるという脅迫めいた説があり、こうしている間にもどんどんAIの社会実装が進んでいる。その状況を受けて、「AIに仕事を奪われますよ、AIに負けないようスキルアップしないと人生終わりますよ」とする「不安のマーケット」が今後隆盛してくるだろうが、PIAACの結果を見ると日本は意外に明るいことがわかる。

以前、こちらの稿(AIは異常な暗記能力を持つバカ。だが、有用であり、ゆっくり人の仕事を奪う)でAIは意味を考えず条件反射を高速で繰り返し続ける「バカ」であるという趣旨のことを書いた。バカたる所以は、AIは意味を理解せずにひたすら条件反射を繰り返しているからだ。そもそもAIはそういう仕組みであるため、そのようなものとして使っていくのが賢明な方法だが、仕組みを人間的な視点から見るとバカに見えるということだ。

AIはその仕組み上、人間の発話内容や置かれた客観状況の意味を理解していない。そう振る舞っているだけだ。人間がAIに対して優位性を発揮することができるのは、「意味を理解する」という点においてだ。意味を理解した上で適切な行動をとることで人間の存在意義が発揮される。逆に言うと、頭を使わず状況に対して条件反射的に対応している人はAIに代替され、存在価値を失っていくということになる。

そして、PIAACはこの能力を測っている。つまり、PIAACの成績はAIに置き換えられにくい指標と考えられるのだ。そこでトップクラスの成績をあげた日本はもっともAIに負けにくい国といえる。公教育のコスパがよく、知能が平均して一番高いという結果に対して日本人は自信を持っていいはずだ。

それと同時に、PIAACは年齢が上がるとともにAIに置き換えられやすくなることも示している。ということは中高年になってからピンチは訪れる。とりわけ頭を使わない人に。

空間か時間をずらす

このことを念頭に、PIAACの結果から、凡庸な能力しかない人はどう行動するのが合理的なのかを考えていきたい。

国立教育政策研究所「OECD国際成人力調査(PIAAC)第2回調査のポイント」より
国立教育政策研究所「OECD国際成人力調査(PIAAC)第2回調査のポイント」より
国立教育政策研究所「OECD国際成人力調査(PIAAC)第2回調査のポイント」より

上のグラフから合理的な方策として考えられる方向性は2つある。空間をずらす、時間をずらす、この2つだ。

空間をずらす

空間をずらすというのは、外国に移住するという戦略だ。日本人には優秀な人が多いということは、国内に優秀なライバルも多いということになる。しかし、外国に移住すれば優秀なライバルの数はぐっと減り、日本では群衆の中に埋もれていた「凡庸な人」も相対的に優れた人になる。

もしあなたが読解力、数的思考力のテストでレベル3の最下位(326点)だったとしようる。日本だとあなたの上には65%いて、下には35%しかいない。しかし、OECD平均の能力しかない国に行けば、あなたの上には45%ほどしかいない。つまり何もしなくてもライバルの数はぐっと減ることになる。

それなりの経済大国でチャンスがありそうなのは、アメリカ、フランス、スペイン、イタリアなどだろう。そのためには、その国の言葉を習得するという高いハードルを超えなければならず、専門スキルがなければ実際に行うのは移民相当の仕事になるだろうが、ポテンシャルは周囲の人より高く、日本にいるよりライバルが弱いことに気づくだろう。そこで言語のハードルをクリアできればポテンシャルが開花し、日本で同じことをやっていたときよりもより重宝されるだろう。

時間をずらす

だが現実的に、ほとんどの人にとって国外に移住するというのは難しい。そこで考えられるのは、時間をずらすという戦略だ。日本人の能力は、(他の国と同じく)加齢とともに衰えていくという傾向を示している。

日経(2024年12月10日)「日本人の知力、24歳で頭打ち」より

とすれば、若い人は45歳以上の集団に入り込むことで相対的な優位性が発揮できることとなる。

具体的に思いつくのは、技術水準やサービスの水準は高く優良なのだが、高齢化している企業だろう。休廃業している企業のうち黒字企業の割合は50~60%でここ10年ほど推移しているが、その中には高齢化して事業承継ができなくなった隠れ優良企業が潜んでいるかもしれない。

長期にわたる少子化トレンドと相まって、優秀な(もしくはそれほど優秀でなくても)若者は引く手数多で、若年者にとって現在はいい時代なのだ。年齢が若いというだけで希少、さらに若者は優秀というPIAACが示した事実により若ければ若いほど存在価値は高く、時間をずらす効果は高いだろう。

当然、高齢化した企業の高齢メンバーは、若いあなたに「めんどくさい仕事」を押しつけようとしくるだろうが、あなたは希少な存在なのだ。強力な「拒否権」を行使することができる。

ここまではややテクニック的なことだが、それを下支えするもっと重要なことがある。ちゃんと頭を使うこと、そして努力することだ。

ちゃんと頭を使う、努力する

現状維持をめざし、頭を最大限使うことでライバルとAIに勝つ

PIAACの結果は、何もしなければ加齢とともに能力が落ちていくということを教えてくれた。そうだとすれば、おもしろくない結論だが、能力を維持するためにはなんらかの努力をしなくてはならない。

しかし、努力をするといっても「ちょっと努力する」から「死ぬほど努力する」まで程度の差はある。そこでわりと楽でお手軽なものから考えてみたい。それは、能力の現状維持を図りつつ他の人が加齢とともに落ちていくのを待つという戦略だ。

30代、40代でも20代の能力を維持するだけで他の人より相対的に優位に立てるということをPIAACの結果は物語っている。これであればコスト負担がわりと少なく高確率で報われそうだ。中等教育は中学校まではすべての人が、高校まででもほとんどすべての人が受けたことがあり、その能力を維持するだけであれば万人にできるだろう。

ではもう少し具体的に、何をどう努力すればいいのだろうか。

ここでポイントとなるのが、頭を使うことだ。正直、頭を使うのはめんどくさいし疲れる。できることなら避けたいが、仕事に関しては頭を使ったほうがいい。例えば、飲食店のスタッフ、美容師、タクシー運転手、料理人、会社の事務員などどんな職業であっても、自分が置かれた状況を把握し、何が効率的で最善な対処策なのかを考え続けることが重要だ。PIAACの問題解決能力はこれを測っているし、AIが不得意とすることだ。この能力が高ければ、他人に対してもAIに対しても優位性を発揮できる。

また、PIAACの読解力や数的思考力は、問題解決能力の基礎となるもので、この基礎能力を維持するには、本を読む、中学校の教科書を読み直すといったことで対処できるだろう。PIAACは基礎能力を測るもので、高度な専門知識を要求するものではなく、本や教科書を読むことで維持でき、それで優位に立てるならそれほど大きな負担ではないだろう。英会話スクールやプログラミングスクールにお金と時間をかけて通い身につけるような労力は割く必要はない。それは次の段階だ。

本を読むという場合、論理的に書かれた文章でなければならない。幸いにも日本には新書という安くて手軽な本がある。日本にいるとあまり気付かないが、外国には同種の本はほとんどないか、一般的ではない。少なくともブックオフで100円から買えるような安価な学習環境は整っていない。

分野は自分の関心に近いものを選ぶのがいい。おもしろくないことを頭を使って考えることはできないから、直感で本を手に取ってみるのがいいだろう。言葉では説明できなくても本を手に取った時点であなたの強みを発揮するとっかかりとなるはずだ。

PIAACの結果からすれば、これで他の人よりも優位に立てそうだ。ただし、絶対的優位ではなく、その能力で一生安泰と言えるにはほど遠いが、少なくともAIには負けない人間にはなっているはずだ。あなたでもだめならそのときは日本もOECD諸国も社会的・経済的にかなりひどい状況になっているだろうと言えるくらいの水準には達している。逆に、これができない人がAIに代替されていく。

頭を使って考える能力に遺伝的な素質が関係するのは否定しがたい事実だが、日本人の読解力、数的思考力、問題解決能力はもともと高い。ということは、多くの人は努力をすれば能力を維持できるはずだし、向上させることすら可能だろう。

自己研鑽にもっと時間を費やす

ここまではこの能力を落とさないための方策を見てきたわけだが、さらにハードルが高いものとして専門スキルを磨くという方向性がある。これで人生の安泰度はぐっと上がるだろう。

社会に出てからも自己研鑽を積み、専門スキルを高めようとするのは苦行にも近いが、その苦行に耐えられる人は少ない。PIAACの一般知能ですら維持できないのだから、それを超えるスキルを高めることは誰にとってもハードルが高い。だからこそ、自己研鑽を行えばあなたの優位性が発揮されることになる。

ただし、数か月で得られるようなインスタントなスキルには社会的価値がない。それはAIがやってくれるだろう。細かい資格をたくさん取得することにもたいして意義はない。5年、10年という時間を費やすことで得られるようなスキルにこそ稀少性が生まれ、社会的な価値が生まれる。

自己研鑽という苦行に耐えるためには、自分のパーソナリティに合致した分野を選び取るしかない。このテーマについてはいずれ書くことになるが、それによって苦行が苦行ではなくなり、自然と続けられるようになる。

PIAAC第2回調査の結果は、これに成功している人が少数であることを語っている。それと同時に、現状維持に留まるにせよ、それを超えて自己研鑽を続けるにせよ、「ちゃんと頭を使いなさい、そして学びなさい。そうすれば周囲の人より優位に立てるでしょう」と当たり前のことを改めて教えてくれてもいる。

プロフィール
歩く歴史家
歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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