金正恩は有能な指導者
北朝鮮を取り巻く情勢
2011年末に父の金正日の死去に伴って朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の第3代目の最高指導者となった金正恩(1984年1月8日生まれ。27歳で就任)。この指導者を取り巻く環境は厳しい。
1948年に建国された北朝鮮だが、冷戦下ではソ連と中国が後ろ盾として金体制を支えていた。冷戦終結後はロシアと中国が韓国と国交を樹立し、北朝鮮は孤立感を覚えるようになる。
金正恩から見て恐ろしい敵の筆頭は当然アメリカだ。世界一の軍事力と経済力を持つアメリカに比べれば、北朝鮮はミジンコ程度の存在でしかない。
直接対峙する敵は韓国。日本統治下時代には今の北朝鮮にあたる朝鮮半島北部のほうが工業化は進んでいたのだが、今となっては韓国(南朝鮮)に人口、経済力、軍事力の面で大きく水をあけられてしまった。北朝鮮が韓国を統合するというシナリオは現実味がない。
旧宗主国の日本は戦後アメリカの占領統治を経て、日米安全保障条約を締結し、アメリカの同盟国となった。国交関係はない。
冷戦期には最大の後ろ盾であったソ連を継承するロシアにとっても、平時には地政学的に見て北朝鮮の存在価値が高いわけではなく、積極的に保護するメリットはない。むしろアメリカとトラブルを起こす種でしかない。現在のウクライナ侵略とそれに起因する経済制裁下で両国は接近しつつあるが、国力の差がありすぎロシアから対等なパートナーとしてみなされているわけではない。
中国は朝鮮戦争に「義勇兵」を送って以来、「血の同盟」として北朝鮮を支えてきたが、中国にとり北朝鮮は従順であればいいため、指導者が金正恩である必要はない。金正恩がコントロール不能になるようになるなら、首をすげかえ傀儡政権を打ち立てようとするだろう。(その意味で、北朝鮮のミサイルは西にも向いている)。
経済的には世界の最貧国であり、国民の生活物資は不足しているようだ。貿易は過度に中国に依存しており生殺与奪権を握られている。外貨を獲得しようと細々と輸出したり、非合法活動を行ったりしているが、正式ルートで大量の外貨を獲得するための輸出産業はないといってもいいほどだ。
世界的に見れば北朝鮮は一般的に思われているほど孤立しているわけではないものの、冷戦後の金王朝は近隣諸国から全面的な存立保障は得られない。こうして自力で生存努力を払わなければならず、冷戦後北朝鮮は核兵器とミサイル開発に進んでいくこととなる。
もしあなたっだたら?
27歳のときのあなたが、人口約2600万人のこの脆弱国を率いることができたか想像してほしい。私を含めたいていの人は無理であろう。そもそもこの世界に万単位の集団を率いている20代の人間がどれほどいるだろうか。
圧倒的なグローバル大国に取り囲まれ、絶えず自分の身を含めた体制を守っていかなければならない状況下で、とてつもないプレッシャーに押しつぶされ体調を壊すか、国家運営に失敗し軍事クーデタを受けるか、民衆蜂起で亡命せざるをえなくなるだろう。文字とおり首が飛ぶ可能性も充分ありだ。
その中で金正恩は10年以上政権を守り続けている。見方によっては、有能な指導者だ。西洋側を真似て「ロシア経済フォーラム」なるものがあり、そこが世界のヤンググローバルリーダーを選出するとなると、満場一致でNo1に選出されるだろう。さらにはこのまま金王朝が存続し続けられれば、世界で最も長期間権力の座に付き続けた指導者となる可能性もある。
国と自身と家族の生命がかかっているなら、誰が指導していても金正恩と同じ核開発路線を採るだろう。生存戦略がそれか、中国の属国になるの二択なのだ。こうして金正恩は先代からの権力継承をうまくやり遂げ、政権をきちんと維持している。一般人民を犠牲にしつつ科学技術者やサイバー技術者などの高度技能人材を育成している。
体制が崩壊するなら人民の大規模反乱からということになるだろうが、数十年前から言われているこの説も、今のところ現実になっていない。金王朝はすぐに崩壊するとは言えなさそうだ。時間とともに金正恩は老獪な指導者になっていくだろう。ヘアースタイルと風貌は滑稽だが優秀な指導者だという認識をベースに日本は対峙していく必要があるだろう。