G-5YSV44CS49 【将来予想】ロシアの「西欧化の過程」が完成するのは2060年|歩く歴史家 BLOG

【将来予想】ロシアの「西欧化の過程」が完成するのは2060年

歩く歴史家

ロシアは巨大な鵺(ぬえ)のような国

東スラブ人をルーツとするロシアは、中世には中央アジア・モンゴルからの影響を受けつつ、18世紀後半から西欧特にフランスの影響を取り入れてきた。近代に入ってからロシアは、西ヨーロッパの本流国(イギリス、フランス)から「東の果ての方にあり、図体はデカいが野蛮な国」、「片足はこちら、もう片足はあちら」に突っ込んでいる二等国として扱われ、「ヨーロッパ市民権」を半分までしか認められてこなかった。現在においても「ロシアはヨーロッパではない」と主張する西欧人は多い。

ロシア革命を経て第二次大戦後には世界の二大大国の一角として振る舞いつつ、冷戦崩壊後は怒涛のように押し寄せてくるアメリカの文化的影響力を受けてきた。2000年代には、民主的な国になるような傾向を見せたものの、2010年代からはプーチン大統領による個人独裁が進行しつつある(ように見える)。

この国は制度的に憲法も国会も裁判所も保有しており、三権は分立している。指導者らは民主主義的な価値観を建前上は信じているようだ。プーチン大統領が自分の任期を延長する際には、「憲法などどうでもいい」と主張することはなく、形式的な立法手続きを経て憲法を改正をしているため、実際に立憲主義を尊重する姿勢を示してもいる。

しかし、今回のウクライナ侵攻ではっきりとわかったとおり、現行の国際秩序を堂々と無視する国であり、西欧基準での民主主義国とはとうてい認定できない。昔からの西欧によって向けられる「野蛮な国」というステレオタイプが当たってしまう事態を自ら引き寄せている。

南東ヨーロッパの起源の正教国であり、アジアのようでもあり、西欧・アメリカの影響も強く受けているこの国。建前上民主主義的価値を尊重しているが、個人独裁の要素も強いこの捉えどころのない鵺(ぬえ)のような国は、今後どのようになっていくのだろうか。自由、人権、民主主義を全面に打ち出す西欧諸国(ここではアメリカを含む)のようになっていくのか、はたまた独自のアイデンティティをむき出しにしてロシア性を純化させていくのか。人口動態を見ながら将来を予想してみたい。

栄光の時代に生きる世代

まずはグラフ1(2023年のロシアの人口構造)を参照いただきたい。(グラフは国連のWorld Population Prospect 2022の元データをベースに筆者が作成)。

赤で表示されているのが、冷戦期に二大超大国の一角として、まがりなりにも「世界を支配していた」という記憶を持ち、かつソ連崩壊後の経済破綻期を知り、2000年代以降の経済成長を経験した世代である。激動の時代を生きた世代であり、かつての栄光の時代に生き、プーチン大統領の積極的支持層を含む世代である。

現在の34歳以下=プーチンネイティブ世代=アメリカナイズ世代

それに対して、緑で示される下の世代は、90年代の経済が崩壊状態にあったロシアを知らないかうっすらとしか記憶がない世代だ。物心が付いたときにはすでに社会が安定化し始めており、指導者はすでにプーチンであった。プーチンを経済が崩壊していたロシアを立て直した立役者と認識する世代ではない。この世代にとりプーチンは「小さい時からずっといる頭の固いおっさん」という評価だろう。

この世代は、マクドナルを食べ、Apple社製品を使い、シリコンバレー発のSNSを駆使する。プーチンの「プロパガンダ」を批判的に受け止められる層であり、特に20代以下はプーチンの権力が永続化することを望んでいない。

プーチン本人を含む世代は、アメリカナイズされたこの世代を見て、「アメリカは文化やテクノロジーの影響力(=ソフトパワー)を駆使してロシアを侵略しようとしている」というように我々から見ると「陰謀論」に見える主張を本気で信じていたとしてもおかしくない。

人口構造を見ればわかるのだが、それもあながち嘘とは言い切れない。それどころか正しいとさえ言えるだろう(侵略を比喩的にとれば)。プーチンとその周囲にいる者たちは「内なるアメリカ人」に下からぐんぐん突き上げられ、「早く引退しろ」という圧力に晒されているように感じられていることだろう。

余談ではあるが、プーチンは長くいすぎたのではないだろうか。2010年代に退任していれば「歴史的な大統領」で終われたはずであり、今となっては辞め時を失っているように思えてならない。

2060年頃、ロシアは「西欧っぽいロシア」から「ロシアっぽい西欧型国家」になる

この世代(緑と青)が社会で多数派になり、50歳ぐらいから国家や社会の主要ポストに就き始めるのが2040年以降で、2060年にはその流れが完了する(グラフ2:2060年のロシアの人口構造を参照)。その頃にはもはや「栄光の時代に生きる世代」はほとんど残っていない。こうして約3世紀にわたるロシアの西欧化の過程が完了する。

しかし、ロシアが西欧化していくにつれて人権を尊重する、自由を信奉する、国際秩序に従う、腐敗・汚職がなくなる、反政権派への抑圧がなくなるというふうに「クリーン」な国になるかというと、(サンクトペテルブルクの近くには、そのような模範国があるにもかかわらず)そうは想像しにくい。

18世紀後半の啓蒙専制君主の時代からロシアは西欧のようになる道を辿ってきた。現在は西欧風味を備えているものの、やはりロシアはロシアである。しかし、そのロシアは2060年ごろには典型的な西欧国家・社会になるとは言えないまでも、西欧「型」の国家・社会になっていることだろう。ロシア風味を残しながら。

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プロフィール
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1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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