G-5YSV44CS49 アフリカのクーデタラッシュは若者の急増が原因|歩く歴史家 BLOG

アフリカのクーデタラッシュは若者の急増が原因

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アフリカの不安定化

現在、アフリカの国々でクーデタラッシュが起きている。2020年8月18日にはマリ、2021年9月5日にはギニア、2022年1月23日にはブルキナファソ、2023年7月26日にはニジェール、2023年8月30日にはガボンでいずれも軍人が主導するクーデタが発生した。

また、2020年11月にはエチオピア北部でのティグレ紛争、2023年4月にはスーダンでの軍事衝突と、サハラ砂漠南縁のサヘル地帯で「不安定ベルト」が形成されている。これらの出来事は、政府と反政府勢力との対立、イスラム過激派の拡大、独裁政権の富の専有、国内ガバナンス(腐敗)の脆弱性などに起因すると考えられている。

世直し型のクーデタ

リビアのカダフィ政権が2011年に崩壊して以降、アルカイダ系のテロ集団がサヘル地域で活動を活発化させ、サヘル諸国は国内の治安維持に悪戦苦闘してきた。クーデタを首謀する軍人は、現政権が国内の治安維持に対して無力であることを非難する。

サヘル地域に属しておらず、国内テロが特に問題になっているわけはないギニアでは、現政権での汚職のまん延や貧困が、同じくガボンでは政権の無責任な統治が軍人側のクーデタ遂行理由となっている。

いずれの事例でも、現政権が国内統治をきちんとなし得ていないとの危機認識が首謀者にはあるわけだが、おそらくこれは本音だろう。私は私服を肥やしたい軍隊の跳ね返り分子がクーデタを決行したというより、社会のエリートたる軍人が日に日に悪化しつつある社会を建て直さなければならないという義侠心から行ったものと考えている。いわば「世直し型のクーデタ」である。(戦前の日本でもそうであったように、アフリカの優秀な人間は軍人になるため、彼らは特権的エリートである)。

そして、軍事暫定政権は、国際社会からの批判が浴びせられ、種々の制裁が課されるにもかかわらず持ちこたえている。国民からの支持があるからだ。

アフリカの不安定化の構造的要因は「ユースバルジ」

軍人の主観では、治安悪化や貧困、社会的混乱などの国内的危機があり、現にそれらは深刻な問題なのだが、しかし、問題はもっと構造的だ。これらの根底にあるのが、若年人口の爆発である。いわゆる「ユースバルジyouth bulge」(若年層が膨れ上がっていくこと)と言われるものだ(グラフ参照、いずれも筆者作成)。

社会の近代化が進むアフリカにおいて、伝統社会は従来提供していた職を急激に増加する若者に与えることができない。職にあぶれお金も社会的地位も得られない大量の若者は、自己の存在意義を感じられず自暴自棄になり、暴力活動に鬱憤のはけ口を見出す。

他方で、社会的不満や混乱が発生する中で為す術なく無力な政府があり、私腹を肥やしている一部の独裁者とその取り巻きがいる。この状況に業を煮やしたエリート軍人が「世直し」を決行する。これがアフリカのクーデタの構造だ。

かつての日本も同じ

現在の先進国は、ほぼすべての国で出生数と若年人口が減っている一方で、高齢者が激増している。しかし、かつては若年人口が極端に多く、その増加過程ではどの国も外国(北米・南米)への大量移民を出してきたし、何らかの社会騒擾を経験してきた。

フランスでは18世紀の後半から、ロシアでは19世紀の後半から、イランチュニジアエジプトなどの中東・北アフリカでは1950年代以降、若年人口が増加傾向にあり、それぞれ大規模な社会革命や政変を経験している。

第一次世界大戦が発生し、ドイツとフランスがあのような肉弾戦を展開できたのも、大量の若者がいたからだ。

1930年代から第二次世界大戦に至る時期の日本も同じであり、現在のアフリカを笑っていられない。1930年代の五・一五事件と二・二六事件において陸海軍のエリート青年将校は「世直し」のために腐敗したと彼らがみなす政治家を暗殺した。その直接的なきっかけは世界恐慌とそれに起因する国内不況であるが、背景には急増する若者人口があった。

人口圧力を解消するため国外に移住者を送り出してきたのも現在の先進国に共通する。ヨーロッパからは北米・南米に、日本は20世紀初頭からブラジルに、満州事変以降は国策として開拓移民を送り出してきた。

将来予想:次は赤道ギニア、カメルーン、コンゴ共和国、チャド

(形式的な選挙を伴う)独裁制が長期間続いており、統治の正統性に疑問があるアフリカの国では今後クーデタが発生する可能性が高い。それに当たるのが赤道ギニア、カメルーンコンゴ共和国チャドである。 人口構造は他のアフリカ諸国と同じで、若年層が爆発中だ。

赤道ギニアのオビアン・ンゲマ大統領(在任:1979年~現在。バイデン米国大統領と同年齢で、就任はニクソン大統領時代!現役首脳としては世界最長)、カメルーンのポール・ビヤ大統領(在任:1982年~現在)、コンゴ共和国のサス・ンゲソ大統領(在任:1979年~1992年、1997年~現在)のような長期・多選型の大統領は危うい。

また、父親イドリス・デビの戦死後、憲法に則らずに権力を継承したマハマト・デビ暫定大統領も正統性の点で疑問符が付けられている。

解決策

クーデタ国家が、今後、民政移管を行い民主的な国になるか否かは国際政治上の大きな問題だ。アメリカ・西欧を中心とする民主主義陣営に付くのか、中国・ロシア側に付くのかという問題に関係するためだ。

しかし長期的に見れば、本質は、民政国家であれ軍政クーデタ国家であれ、アフリカの為政者は若年者の急増という構造問題に対処しなければならないという点にある。右肩上がりに増え続ける若者に対してまともに社会生活を送っていけるだけの職を与え、彼らを社会的に包摂することが喫緊の課題であり、現にアフリカの真面目な為政者は若者圧力をひしひしと感じており、事態を正しく認識している。

1 短期的に達成できる解決策として、資源産出国では、その「上がり」を一部の「王朝」関係者内で分配する構造を改め、国民に広く分配することで多少影響は緩和できるかもしれない。これは為政者が既得権を自発的に放棄できるかにかかっている。

2 世界的に見れば、アフリカの若年層を若年人口が減る先進国に移住させるという選択肢がある。この場合、移民需要が極端に強いアフリカにとっても、(低賃金)労働力不足にある先進国(日本を含む)にとっても利害が合致する。

現在14億にのぼる人口を持つ中国も2100年には約8億人にまで減り、高齢化率は40%に達すると想定される。喉から手が出るほど若者がほしいはずだ。億人単位での人口欠損を埋め合わせられるのはもはや世界の中でアフリカ人しかいない。

3 これをスターリン的な強制移住だとして否定される場合、長期的な持久策しかなくなる。出生率はすでにアフリカでもはっきりと低下傾向にあるため、これを促進させるのと同時に、労働集約型産業をアフリカに移転することによってすでに生まれている大量の若者を包摂するという方向性が考えられるだろう。相対的に資金に余裕のある先進国は、アフリカでの雇用の拡大に努めるとともに、技能向上への支援も拡大していく必要があるだろう。しかし、これにはどんなに少なく見積もっても20年~30年はかかりそうだ。

いずれの策も一朝一夕には達成できるものではないため、アフリカでは今後も政治と社会が不安低化し続けるだろう。現在の先進国の人々がかつて経験したように。

プロフィール
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歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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