移民はもうアフリカ人しかいない―日本の目指すべき方向性―
日本の人手不足と賃金の低下
現在日本では空前の人手不足が叫ばれている。建設業、運輸業、医療・看護・介護、飲食・宿泊サービスなどの業界では慢性的に労働者が足りず、中小企業の中には儲かってはいるものの後継者がいないため廃業を余儀なくされるケースもあるとのことだ。
そこで日本は技能実習制度などのルートを通してなし崩し的に移民を受け入れる国家になりつつある(なっている)が、仮に正式に大規模移民を受け入れるよう政策変更したとして、一体誰が日本に来るのだろうか。
前提として、日本の一人あたりのGNI(国民総所得)は42,440ドルで、統計上は世界で32位。人口が1,000万人以上の国に絞れば9位、5,000万以上で絞ると5位となる(2022年世銀統計)。1990年にはスイスやアメリカと同水準であったものの、今やスイスの半分弱、アメリカの55%程度しかない。 この後見ていくが、世界各地の人口動態と日本の賃金水準の観点から、もはや日本は移民に選ばれる国ではなくなっている。ある一つの地域を除いては。
安い国になった日本にアジアから若者が来るか?
まずは、中国の人口動態を見てみよう。(以下すべてのグラフは国連の人口推計(2022年、中位推計)の元データを基に筆者が作成)
生産年齢人口(15-64歳)はピークに達しており、今後は減少していく。それは過去から続く少子化が原因であるが、もはや希少になる一方の若者を外国に送り出している余裕はなさそうだ。
では、東南アジアはどうだろうか。
中国に比べて生産年齢人口の増加はあと20年から30年ほど続きそうだが、これから少子化の局面に入っていく。中国よりは送り出しの余力はあるだろうが、これから若者が希少になることは確かだ。1990年の日本であれば喜んで移民先に選ばれただろうが、今はその魅力はないだろう。日本で低賃金労働に従事させられるぐらいならずっと賃金のいいアメリカを目指すはずだ。
インドはどうか。
こちらも東南アジア型で、少子化がすでに始まっている。東南アジアもインドも現在経済成長中で、かつての日本がそうであったように、経済成長するにつれてわざわざ外国に移住するインセンティブが少なくなっていく。さらに移住先が日本のような「衰退途上国」であればなおさら選択される可能性は小さい。インド人で海外移住を目指す人々は、言語的にもアメリカを目指すだろう。
では、誰が来るのか?
続いて、中南米はどうだろうか?
東南アジアと似ている。地理的な近さ、先行移民の多さからこちらこそアメリカを目指すだろう。地球の裏側にある日本を選ぶ理由はなさそうだ。
中東のアラブ・トルコ圏はどうか。
こちらは送り出しの余力と需要がありそうだ。しかし、近年少子化が進みつつあり、出生率が6を超えていた時代は過ぎ去ったため、国連により将来的に社会の高齢化率が上がっていくことが予想されている。
残るアフリカはどうか。
人口動態からすると、この地域が最も送り出しの余力と需要を備えている。出生率も低下傾向にあるとはいえまだまだ5弱で、今後も子どもの人口は右肩上がりに増えていく。
先日、私が住んでいるアフリカの国で通りを歩いていると、若い警察官に急に呼び止められた。言いがかりをつけられて「小遣い」を要求されるのだなと思って話を聞くと、「お前は何人か?」と聞かれた。「日本人だ」と返すと、「俺は日本で働きたいのだが、どうすればいい?」とのことだった。給料が定期支給されている公務員ですらこの有様で、一般人からはこの手の質問を多く投げかけられる。
現在、東南アジアでこの手の話はあるのだろうか。1990年代であれば東南アジアの人々にとって日本は「夢の国」だったのだろうが、今となっては実態が知れているのではないだろうか。 アフリカでの経験からすると、高技能保有者はアメリカかカナダを目指す。フランスは移民の先人たちから「現実」を知らされているため、多少人気は劣る。彼らにとって日本の印象は非常によく、まだまだ「夢の国」の一つだ。
日本の目指すべき方向性
アラブ人や黒人が日本の人手不足を補うほど大量に流入する場合、文化的な相違により日本社会に溶け込むのは容易ではないだろう。ヨーロッパの事例を見る限り、彼らが2世、3世となると、失業、社会的排除により阻害感を覚えるようになり、パリ郊外のような荒れた地区が出現するだろう。その事態へのリアクションとして、日本でも西欧・アメリカのように反移民政策を掲げる右翼政党が台頭し、支持を得るというシナリオはかなり現実的だ。
このような事態を避けるため、今の日本は文化的な摩擦の少ない東南アジアから実質的な移民を入れているのだが、すでに見たようにそれももう続かないと見るべきだろう。
目の前の人手不足を補うため低賃金労働者たる移民を酷使するという近視眼的な発想より、日本人の賃金を上げまともに子どもを生み育てられる状況を作り出すのが正しい。その場合、経済主体たる企業は賃金の上昇圧力に晒され短期的に経営が厳しくなるわけだが、中長期的に見た場合、それに耐えられない企業は早めに潰れたほうがよい。高賃金を払えるだけの企業が残るのが日本社会全体にとりよいのだ。まさにこの方向性こそスイスが過去30年間で辿ってきた道であり、それにより今となってはスイス人の給料は日本人の2倍になり、安定的な社会を作り上げることに成功したのだ。