G-5YSV44CS49 アフリカは大国間対立に関わりたくないが、投資はほしい|歩く歴史家 BLOG

アフリカは大国間対立に関わりたくないが、投資はほしい

歩く歴史家

米国陣営と中ロ陣営

現在の国際政治状況を概観すると、アメリカを筆頭とする自由民主主義陣営と中国・ロシアを中心とする権威主義陣営に二分されつつあるように見える。冷戦時代には米ソ二大国が世界中で張り合っていたが、2000年代から中国が台頭し、ロシアよりもはるかに大きな国力をつけた。今となっては中国はアンチ米国グループの筆頭に踊り出し、ロシアはそのジュニア・パートナー化した感がある。

冷戦の文脈では米ロともにアフリカ諸国を自陣営に引き入れようと働きかけてき、アフリカにも社会主義政権が誕生した。しかし、冷戦後に社会主義を標榜するアフリカの国は姿を消し、現在は中国が巨額の資金をもってアフリカで躍進している。アフリカ諸国はその中で、欧米・中ロとどのように関与していくのか模索を続けている。

アフリカの国連投票行動

2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻の後に国連で一連のウクライナ関連総会決議が出されたが、アフリカ諸国は米ロ陣営のどちらにつくか踏み絵を踏まされるような格好となった。アフリカ各国が一連の決議にどのように反応したのかを見てみるとおもしろいことがわかる。

一例として2023年2月23日(ニューヨーク時間)に採択された「ウクライナの平和を求める国連総会決議」でのアフリカ諸国の投票行動を見てみると、棄権もしくは不投票の態度を示した国は、全54か国中22か国(残りは賛成)に上った。

【棄権】アルジェリア、アンゴラ、ブルンジ、中央アフリカ、エチオピア、ガボン、ギニア、モザンビーク、ナミビア、コンゴ共和国、南アフリカ、スーダン、トーゴ、ウガンダ、ジンバブエ

【不投票】ブルキナファソ、カメルーン、赤道ギニア、エスワティニ、ギニアビサウ、セネガル、タンザニア

アメリカもヨーロッパもロシアも胡散臭い、中国は様子見

アフリカの棄権した国が感じているのが、アメリカと西欧のダブルスタンダードだ。歴史的な事例はいくつも挙げられるだろうが、例えば西欧諸国によるアフリカの植民地化、パレスチナの領土侵害、近年ではアメリカによるイラク侵攻などを不問に付して、ロシアによる侵略は糾弾するという欧米の姿勢が彼らには気にくわないのだ。

アフリカの棄権は、アメリカ・西欧側への不信感の表れと見るべきであり、先進国はそのことを真摯に受け止め、改善すべきは改善しなければならない。

だからといって、これらの国々はロシアを信用しているかというと全くそうではない。ウクライナの件ではロシアを侵略国とみなしており、ロシアの暴力性も危うさも知っている。マリ、中央アフリカなどワクネルが暗躍している国々では、すがれる藁がロシアしかないからそうしているのであり、根本からロシアを信頼しているからではない。

欧米諸国のダブルスタンダードが気にくわない場合、それらの諸国はロシアの侵略を非難しつつ、同時にアメリカ・西欧側も糾弾するというのが筋の通った正攻法であるが、現実政治の中でそれを行ってしまうとどちらも敵に回すことになる。したがって、現実的な選択肢としては、極力関わらない、無言で拒否の姿勢を示すこととなる。

アフリカ諸国を全体として見れば、米ロの代理戦争と化したウクライナ戦争は、アフリカ諸国にとって「遠くで起きているヨーロッパの事件」との認識であり、欧米とロシア陣営の抗争に巻き込まれたくない、というのが本音だ。

その中で、アフリカ諸国は米ロから「お前はどちらにつく?」と究極的な踏み絵を踏まされないよう配慮しつつ、全方位から利益を引き出そうと外交努力している。他方、アメリカ・西欧諸国側としても、むやみやたらに踏み絵を強要することはしないとの暗黙の了解がある。

中国に関しては、アフリカ諸国にとってみれば、過去のしがらみがあるわけではなく、古くからアフリカ支援をしてくれている国である。現在は巨大投資をしてくれる有望なパートナーであるため積極的に取り込みたい。欧米からの援助にはもれなく「民主化」という要求がついてくるが、中国はそのような「めんどくさい」条件を付けてこない。決断と行動も早い。

しかし、アフリカ諸国は、近年中国の「債務の罠」に嵌まる国があることも知っており、裏にある真の意図を図りかねている。適度な警戒をしつつ中国から最大限投資を引き出すというのがアフリカのスタンスだ。

日本はチャンス

アフリカのアメリカ・西欧・ロシア・中国への不信感がくすぶる中で、その間隙を埋めることができる国がある。それが日本だ。幸いなことにアフリカで日本は、勤勉かつクリーンで、誠実に対応してくれる国と認識されている。西欧陣営に属するわりには民主化を高圧的に要求してくることもない。だがちょっと控えめで陰が薄い、というのが彼らの日本に対するイメージであり、「もっと積極的に関与してくれよ」というのが日本に対する要求だ。

特にマリ、ギニア、ブルキナファソ、ニジェールなどクーデタ後に国際社会から制裁を受け八方塞がりになり、ロシアに逃げるしかない状態になっている国にとってみれば、すがる先として日本は頼りがいのある国である。欧米にとってもアフリカでの過去の因縁のない日本が表に出てくることに異論はないし、アフリカ諸国を中ロ側になびかせないためのカードとなりうる。

現実として、テロが頻発するサヘル地域において治安維持活動を展開する能力も意志も日本にはないだろうが、西欧とのこじれた関係を調整するだけの政治力は持っている。

プロフィール
歩く歴史家
歩く歴史家
1980年代生まれ。海外在住。読書家、旅行家。歴史家を自認。
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