ロシアは力の強いアフリカ -等身大のロシア像-
客観データを見ればたいしたことないロシア
これまでもロシアについて書いてきたが、あらためて、広大な領土と世界一の核戦力を持つこの国の客観的な大きさはどれほどのものだろうか。その等身大の姿を分析してみたい。
結論から言えば、「ロシアは2.3流ぐらいの国家だ」というのが私の独断的な見方である。さすがに3流国家ほどひどくはないが、2流に到達しそうでまだ達していないといった具合だ。現行の国際秩序下での覇権国アメリカと比較するのは傲岸不遜と言えるほどの規模でしかない。
以下ではデータを見ていこう。
国土と人口
国土の面積は、1,700万平方kmで世界1位。アメリカの約1.7倍、中国の約1.8倍、日本の約45倍だ。人口は1億4,400万人で世界9位。アメリカの約36%、中国の約10%だ。単純に国土と人口の観点から見てみれば、そうとうな大国といえるだろう。しかし、もう少し詳しく内実を見てみると、違った実相が浮かび上がってくる。
経済力
ロシアの名目GDPは約2兆2,400億ドルで世界8位(以下GDP関連データは、世界銀行2022年ベース)。ひとつ上はフランス(人口約6,500万人)、ひとつ下はカナダ(人口3,870万人)。規模的にはアメリカ・テキサス州の総生産と同程度だ。
世界1位のアメリカのGDPは約25兆4,600億ドル、2位の中国は約17兆9,600億ドル、3位の日本は約4兆2300億ドルなので、ロシアのGDPは、米国の8.8%、中国の12.5%、日本の53%である。
2022年の世界全体のGDPは約100兆ドルなので、それに占めるロシアの割合は約2.2%、アメリカは25.5%、中国は18%、日本は4.2%。この数値を見れば、ロシアの存在感は小さく見える。
さらに、ロシアの一人あたりGDPは15,345ドルで、世界81位。ひとつ上はチリ(15,355ドル)、ひとつ下はブルガリア(13,772ドル)。アメリカは76,398ドルで世界12位、中国は12,720ドルで85位、日本は33,815ドルで43位。こちらもアメリカ、中国、日本と比較すればそれぞれ20%、120%、45%である。
ここまでくればロシアの小ささがイメージできるだろう。アメリカと比べると、ロシアは一州程度の規模感である。中国との比較では、一人あたりのGDPではロシアが上回っているものの、絶対規模(名目GDP)で見れば、比べるべくもないほど小さい。
産業・貿易構造
産業・貿易構造は、原油・天然ガス、石炭、金、ダイヤモンドなどの一次産品を輸出して、機械製品や自動車を輸入するという典型的な発展途上国のパターンを示している。いわゆるモノカルチャー経済だ。
日本の対ロ貿易額(出典:日本貿易会)を見てみると、ウクライナ戦争前の2020年には日本の対ロ輸出額は約6,300億円、輸入額は1兆1,500億円。最大の貿易相手国である対中国貿易は、輸出15兆円、輸入17.5兆円。2位のアメリカは輸出12兆円と輸入7.4兆円なので、日本のロシアとの貿易額はたいしたものではないことがわかる。特にロシアからの主要輸入品目は石油と天然ガスなので、他からの調達で代替できる。
客観事実から見れば実際のロシアとういのはこんなものだ。日本はロシアがなくても特に困らない。それはアメリカにとっても中国にとっても世界全体にとっても同じで、世界各国はロシアと貿易を絶たれたとしてもほとんど影響を受けないだろう。
ロシアの仲間、ソフトパワーの欠如
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始の後、国連での対ロシア非難決議が採決された。そこで図らずもロシアの「仲間」が明らかになった。対ロシア非難決議への反対国(=ロシアの積極的な仲間)はシリア、北朝鮮、エリトリア、ニカラグア、マリの5か国。なんとも「頼もしい」仲間だ!(棄権国はロシアの賛同者ではない。同じくアメリカ・EUへの賛同者でもない。いわば面倒くさいことに巻き込まれたくない国。)
こうなったのは、ロシアが侵略国家であること、経済力がないことに加えて、ソフトパワーがないためだ。ロシアの工業製品、電化製品、デジタル製品、ソフトウェア、映画や音楽などのポップカルチャーに魅了される人はほぼいないだろう。読者の方も、身の回りにロシア製品を持っている人はいるだろうか。日本でのロシアの影響で思い浮かぶのは、19世紀から20世紀にかけてのロシア文学ぐらいか。
政治的には、ロシアは憲法改正によって大統領任期を伸ばしたり、過去の就任回数をゼロカウントにしたり、一応選挙を行っているが権威主義的指導者が支配する「選挙権威主義体制」を敷いたりする点でアフリカに近い。
なぜロシアは大きく見えるのか
ロシアが大きく見える原因を考えてみると、まずは単純なものから、広い国土が挙げられるだろう。その上、広い面積が、大半の人が通常目にするメルカトル図法により地図上で実際よりも広く表されているため、錯覚を起こしやすい。
次は軍事面、とりわけ核戦力の大きさによる。ロシアは約6,000発の核弾頭を保有しており、アメリカの5,400発を凌ぐ。軍事費は617億ドルで世界4位(1位アメリカ約7,800億ドル、2位中国2,500億ドル、9位日本490億ドル、2020年)。対GDP比で2.75%(アメリカは3%)。
核兵器偏重の傾向が見られるロシアの指導者は、どんな強迫観念にとりつかれているのか、端から見ていて理解しがたい。上記のデータでわかるとおり、ロシアはアメリカの比較にならず、アメリカはもはやロシアなど脅威と見なしていないため、もっと国内開発に予算を振り向けたらよいと思うのだが、ソフトパワーが著しく乏しいことを考えると、世界に影響を及ぼせるアセットが軍事しかないためそうせざるを得ないのだろう。国民軽視の路線を走ることができるのは、国家歳入が化石燃料の輸出に依存しており、民意をそれほど重視しなくてもよいためである。
それから現代人にとっては、第二次世界大戦中から戦後の冷戦期にかけてのソ連時代のイメージが記憶にあるため、ロシアが大きく見えるのだろう。ソ連は第二次世界大戦で2,000万人を超える死者を出しながらもナチスに勝利した底力がある。伝統的に人権意識が希薄で、政権が人間の命を軽く扱える「強み」もある。もちろん日本人にとっては明治期からの仮想敵・実際の敵であったことも一因だ。現在の中国人や中国政府幹部はロシアを驚異として認識しているのか知りたいところだ。
ロシアは大きなアフリカ
このとおり実態よりも大きく見えるロシアも、その等身大の姿を見てみるとイメージされるほど大きな国ではない。ロシアは、その経済構造が石油・天然ガス・石炭・金・ダイヤモンドなどの鉱業に偏っており、核兵器に偏重している。人権意識が低く、独裁傾向が強いという特徴を持つ。世界に提示できる積極的な価値観は持たないが、西洋流のリベラルには抵抗する。
これを戯画的にデフォルメして標語的に表現すれば、「ロシアは力の強いアフリカ」だ。鉱物資源の採れるアフリカの独裁国の支配者層にとりロシアはいいモデルだろう。
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